8章 大差 6話
「子供に先に挨拶させるなんて、大人失格だな」
レイジックは肩を軽く弾ませて頬に笑みを浮かばせながら自分に呆れていた。
「ようこそライト君。さあ、もっと中に入って」
カウンターの中に居るガディアが笑顔で手招きしてライトを誘導する。
「ほらほら、こっちこっち」
そこでミリイが満面の笑みでライトの二の腕を自分の腕で巻くようにして奥に連れて行く。
「え、あ」
戸惑うライトは成すがまま連れて行かれた。
「皆、私達の組織名と同じ名前のライト君。光を照らす(ライトイルミネイト)の将来を担う優良候補ですよ」
ミリイは無邪気な笑みでラーシュとレイジックの前ではしゃいでいた。
「やれやれ、名前一つで大袈裟なんだよお前は。もっと内面的な部分で評価してやれないのか?」
レイジックは呆れながらミリイにそう言う。
「もちろん内面を考慮してでの判断です」
ミリイは胸を張り上げ自慢気に語る。
ラーシュは呑気なミリイを見て笑いながらウイスキーを口にする。
そしてタルヴォとヒーロー教官もバーの奥に行く。
「お前、真昼間どころか、勤務中に酒って」
タルヴォはラーシュに呆れていた。
ラーシュは申し訳ない気持ちなど一切なく、タルヴォに向けヘラヘラ笑っていた。
「止めたんですがねえ『俺は酔えば酔う程、哲学者達以上な偉業を成し遂げられる稀有な男だから大丈夫』なんて言って自分で注いでいきましたよ」
ガディアは目を細め呆れながら口にする。
「酔拳じゃあるまいし」
タルヴォは大きなため息を吐く。
カウンターの上にはお金が置いてあった。
どうやら律儀にお金だけは払ったラーシュだった。
すると、レイジックが爽やかな面持ちでライトの近くに寄ってくる。
「商店街の銃撃事件じゃ、ろくな挨拶は出来なかったからな。光を照らす(ライトイルミネイト)所属、レイジック・ボルティクスだ。よろしくな」
レイジックは鋭い目付きでライトの前で姿勢よく敬礼した。
礼儀と作法は光を照らす(ライトイルミネイト)者達の中ではきっちりしているようだ。
「同じく所属、ミリイ・ジュリアンです。宜しくね。ライト君」
横に居たミリイも笑顔でライトの前で敬礼する。
そこで、ようやく飲む手を止め「よっこいしょ」と言いながら立ち上がるラーシュ。
若年寄かよ、とタルヴォはラーシュに向け眉を顰める。
「んじゃ俺も。同じく所属、ラーシュ・イグナントだ。宜しくな」
ラーシュは酔っていた訳でもなく、陽気に敬礼する。
そこで、タルヴォはレイジックの隣にまで歩いて行く。
「同じく所属、タルヴォ・セプトンだ。改めて宜しくな。ボウズ」
タルヴォは熟練したような雰囲気で敬礼する。
正に磨かれた男のようだ。
「は、ハイ! こちらこそ、改めて宜しくお願いします」
ド緊張のライトは再び屹立したような姿勢で深々と頭を下げた。
そんなライトを暖かく笑ってあげる光を照らす(ライトイルミネイト)のメンバー達。
「どうやら俺らが肩肘張ったせいでボウズもそれに釣られたな」
「だな」
タルヴォが微笑しながらそう言うと、それに二つ返事で笑いながら同意するレイジック。
ライトも固くなり過ぎた、と思い、照れ隠しでもしているかのように頬を人差し指でポリポリと掻いていた。
「まったく。子供に要らん気を遣わせて。それにしてもミリイちゃん。前よりお尻が大きくなったんじゃないか? 丁度良い安産体系だ」
ヒーロー教官は、けしからん、みたいな態度から一変して、下卑た笑みでミリイのお尻を注視しながら親指を立てる。
すると、ミリイは不貞腐れた顔で、ヒーロー教官の前にまで無言で行くと、ヒーロー教官の頬を強く叩く。
「ぶふぉっ!」
ヒーロー教官は吹っ飛ばされ、床に腰を付けながら頬を摩り、顔を歪めていた。
「それじゃあ早速、事情聴取を始めましょう」
スイッチを切り替えたかのような笑みに変わったミリイは、ライト達に向け両手をパン、と軽く叩き率先して本題に入ろうとする。
そして、一同は圧力でも掛けられたかのように引きつった顔で頷く。




