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1章 悲惨な日常 6話

 リビアムも教室を出ていくと、レイベがライトの元に歩み寄ってきたその時、ライトの腹部を力強く殴った。


 思わず呻き声を口から漏らすライト。


 「くたばれクズ」


 悲しみと悔しさで打ち震えるライトに対し、暴言を吐き捨て去って行くレイベ。


 ライトは一人ぽつんと教室に取り残され、しばらく泣いていた。


 気持ちが中々落ち着かず、発狂したい程、ライトの心中は穏やかではなかった。


 十分後、掃除をしないと、また罵声を浴びさせられる、と感じ始めたライトは口元のに付着している血を手で拭い、教室にある掃除用具を手にし、廊下に出て水道に向かいバケツに水を汲む。その時に手に付着している血も洗う。


 教室に戻ると、悲しみと怒りで震える手で四散した血を雑巾で拭いていく。


 しかし、掃除をするペースがあまりにも遅かった。


 心に深い傷を負わされていたせいか、全てを投げ出したい気持ちを押さえつけるので精一杯だった。


 下唇を噛みしめ嗚咽を漏らしながらゆっくりと掃除を進めていく。


 しばらくして拭き終わり、掃除用具を全て片付けた時には、昼の十二時を回っていた。


 十二時三十分が昼休。その間に昼食を取ろうと、デイバックに入っている魚肉ソーセージを一本取り出し、泣きながら口にしていく。


 ライトの昼食はそれのみである。金銭に余裕が無く、貧困であるライトにとっては仕方のない事だった。


 悲嘆な思いで味も分からぬまま、ただ栄養を補給するため、()(しゃく)し胃に流しもむ。


 食事を終えると重い足取りで生徒指導室に向かって行くライト。


 向かう途中では昼休みに廊下で談笑していた生徒達がライトに「またあいつやらかしたらしいぞ」「マジで消えろや害虫」と暴言を呟いていた。


 今度はライトに聞こえる声ではっきりと口にしていたが、ライトは今の自分の立場を理解していたため、怒りの鼓動を感じながらも奥歯を噛みしめ、生徒達を横切って行く。


 そして、一階の生徒指導室の前で止まると、軽く二回ノックをするライト。


 「……入れ」


 リビアムの冷ややかな声量がドア越しから聞こえてくると、ライトは悲痛な思いで生徒指導室に入っていく。


 部屋に入ると、ソファーに座るリビアムは眉間に皺を寄せ、(けい)(がん)の眼差しをライトに向けてくる。


 部屋は狭く、アームチュアをデザインとした2人用のソファーが2つ、テーブルを挟み向かい合う形で設置されている。


 これと言った装飾品も無く、蛍光灯のみの部屋。まるで警察署の取調室に近い内装。


 「……座れ」


 入ってからライトは少し黙って立っていると、リビアムが蔑んだ目をライトに向け座るように命令する。


 先程、騒ぎを起こしてからのライトに対し全て命令口調のリビアムだが、本人は命令している事に自覚はない。


 リビアムにとっては妥当な対応だった。


 互いに向かい合いながら座り、数秒間、沈黙が経つ。


 ライトは辛酸な思いでただ俯いていた。


 そこで沈黙を破り出したリビアムは重い口調で語りだす。


 「先程、ルメオンの患部の状態が知らされた。傷は人差し指と中指の第一関節の骨にまで達し、再生治療が余儀なくされたそうだ」


 ルメオンが重症だと認知してもライトの気持ちは揺るがない。


 ひたすら、自分に対する冷遇に不満と怒りを心の内で訴え続けていた。


 何故自分がこんな目に遭うのか。何故他人はここまで冷たいのか、と。


 すると、話を聞いていない、と判断したリビアムがテーブルの足を蹴りだした。


 「加害者が更正するには、それ相応の報いがいる。今の貴様のように第三者に菌を齎す害虫には特にな」


 「あんたは何を見てきたんだ! 教師のくせに外見や結果でしか物事の善し悪しを見切れない汚物のような目を晒しやがって!」


 威圧するリビアムのその声に(いち)()の糸が切れたかのように激怒するライトはその場で立ち上がる。


 「やはり害虫に付ける薬はなさそうだな。致し方ない。……退学だ」


 罵りながらリビアムが口にしてきた退学の二文字にライトは口を閉ざしてしまった。


 苦悶な表情で、俯いてしまうライト。また動悸が始まってくるのを感じ、困惑し始めた。


 「言っておくが、貴様が退学後には今回の騒動だけでなく、今までの無関係な人間に対し暴力や暴言を行使した所業も世間に拡散するだろう。そうなれば貴様を編入させる高校は皆無だ」


 ライトの暴力事件は今回に限った事ではない。ヴァンが亡くなってからの一年後には周囲から「奴は終わった」「英雄を亡くした哀れな息子」など陰口を言われ続けてきた。そして我慢の限界を向かえたライトはその相手に「いい加減にしろ」と怒鳴りつける事が頻繁にあった。


 そんなライトに嫌気が差した生徒達はライトに対し過剰な暴言を言うようになった。


 暴言に耐えきれなくなったライトは突発的に暴力を振るうようになる。


 そんな事が反復していく内に、ライトは都内では厄介者として認知され、今に至る。


 辛い表情で立っているライトをリビアムは冷めた目付きで見上げながら、淡々と語る。


 退学だけは避けたいライト。仮に退学になってしまえば、カナリアを養ってあげるどころか、共に路頭に迷うかもしれない。


 そうなれば、生きている意味が本当に失ってしまう。

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