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8章 大差 4話

 しかし、ライトは何も思い浮かばなかった。


 出来る事なら時を戻して、自分が仲裁役になりたいぐらいだ、と思うぐらうしか出来なかった。


 「ちなみにそのカップルは別れました。恋人の女性が真人間になり過ぎた男性に付いて行けず」


 しかめっ面で説明する黒人の男性の言葉に、ライトは脱力しきったような気持で片手で両目を覆い隠しながら空を見上げていた。


 もう打つ手がない。


 「真人間になったなら良い事だろ。その恋人の女が(きょう)(りょう)すぎたから別れただけだ。私に何の非がある」


 ヒーロー教官はふてぶてしいを通り越し、むしろ自分が寛大な人間だ、とアピールするかのように胸を大きく張る。


 「とにかく署までご同行を」


 とうとう付き合いきれなくなった黒人の警察官は手錠を取り出す。


 ライトとヒーロー教官は互いに顔を見合わせあたふたしていた。


 すると。


 「おーい! ちょっと待ってくれ!」


 ライトの正面から横断歩道を走って来た一人の白髪の中年の男性が声を張り上げライト達に向かってくる。


 ライト達の前に辿り着いた白髪の中年の男性はタルヴォだった。


 肩から息を切らしながら呼吸を整えるタルヴォ。


 「……貴方は? この妙ちくりんな男性の親族の方ですか?」


 黒人の警察官は(いぶか)しい目をタルヴォに向け返答を待つ。


 「ハハハッ、おいタマゴ。お前、妙ちくりんと言われてるぞ」


 ヒーロー教官はニヤニヤしながらライトに目を向ける。


 しかし、妙ちくりんと指摘されたのはどう考えてもヒーロー教官の事である。


 (いえ、貴方の事だと思います)


 ライトは、反論するとヒーロー教官が怒り、傷心してしまうのではないか、と思い、敢えて口には出さず、渋い表情をヒーロー教官に向けながら心の内でぼやいていた。


 「まあ似たようなもんだ。ほらよ」


 タルヴォは呼吸を整え終えると、ぶっきらぼうに答えながら、警察手帳を黒人の警察官の目の前で広げて見せる。


 すると、タルヴォの警察手帳を見た黒人の男性はビクン、と身体を跳ねらせるように驚いた。


 「――し、失礼しました! タルヴォ刑事!」


 黒人の男性は、背筋を伸ばし敬礼する。


 それを目の当たりにしたヒーロー教官は何故か不機嫌な面持ちになる。


 「いやいいんだ。それよりここは俺に任せてくれないか。お前さんはこのバイクの押収を頼む」


 「了解しました!」


 タルヴォは慣れた口調で淡々と言うと、黒人の警察官はなんの不満も持たず誠意を込めて承諾した。


 すぐに黒人の警察官は胸元に付けている無線機でレッカー車の手配をする。


 「よし。行くぞ二人共」


 「え、あ、はい」


 「ふん」


 タルヴォが指示を出すと、ライトは少し面を食らったような表情で返事をするが、ヒーロー教官は何故か不貞腐れていた。


 指示通りにタルヴォに付いて行く事にしたライトとヒーロー教官。


 そして、横断歩道を渡った先に駐車していたタルヴォの白いセダンの車に乗車し、タルヴォの運転で走行していく。


 飲食のチェーン店や軒並みの住宅街など横切りながら、目的地に向かう一同。


 後部座席の左にライト、右にヒーロー教官が乗っている。


 「先程は助かりました。ありがとうございます」


 ライトは真摯にお礼の言葉を口にする。


 「さっきの事は気にするな。大体、事態に付いては察しが付いていたからな。どうせそこの馬鹿がまたやらかしたんだろ」


 淡々と口にするタルヴォ。


 タルヴォはヒーロー教官の事を熟知しているような口ぶりだった。


 先程、すぐにバイクを押収させたのは、その持ち主とヒーロー教官との間で一悶着の末、身勝手な理由でヒーロー教官が没収したのだろう、と踏んでいたのかもしれない。


 実際、一悶着どころの騒ぎではなかったが。


 「それにしてもタルヴォ。お前も随分偉くなったもんだな」


 ヒーロー教官は無愛想な表情で不満を口にする。


 「何言ってんだ。俺よりも出世した奴がいるだろ。刑事と言っても所詮、政府に首輪をつけられた(じゅん)(しゅ)な犬でしかないからな。俺の場合」


 ヒーロー教官の態度にも嫌気が差すことなく、真っ当に答えるタルヴォ。


 先程からヒーロー教官が不機嫌だったのは、タルヴォとの身分の違いによるものだったらしい。

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