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8章 大差 3話

 「アッハハハッ」


 「ハハハハッ」


 何故か向かって笑い合う黒人の男性とヒーロー教官。


 完全に黒人の男性は馬鹿らしく笑っていて、ヒーロー教官は黒人の男性に誤りがある事に気付いたのか、笑って流してやろうとしているような。


 ライトはそれを訝しい目で注視する。


 「どうやら無免許運転だけでなく、(しょう)(しょ)()(ぞう)(とう)(ざい)も適応されそうですね」


 黒人の警察官は一変して鋭い目をヒーロー教官に向ける。


 「なに⁉ 今のを見て分かるだろ! 大統領における特令だぞ!」


 飛び跳ねるように驚くヒーロー教官は怒涛の勢いで黒人の警察官に詰め寄る。


 「明らかに偽造ですよねこれ? この障害者手帳が本物でなければ後者の罪には問われなかったかもしれませんが、貴方も馬鹿な事をしたものだ。ちなみにそんな特令なら、警察官である私が知らない訳がないんですよ」


 呆れながら口にする黒人の警察官。


 ライトは非の打ち所がない黒人の警察官の言葉に何も反論できず、先程から額に手を当てたまま俯いている状態。


 「そんなのお前がド新人だから知らないだけじゃないか?」


 引き下がらないヒーロー教官は黒人の警察官を挑発する。


 「新人であろうとベテランであろうと、特令なんてのは司法の人間が知らない訳がないんです。同じ事を言わせないで下さい」


 黒人の警察官はやや(おこ)り気味で口にする。


 だが、ヒーロー教官が犯した罪? はこれだけでは終わらなかった。


 「それから先程、一般の男性が「知らない場所で大量のドクゼリを食わされた。助けてくれ」と(おう)()()()などしながら泣いて私の所に(こん)(がん)してきました」


 黒人の警察官の言葉を耳にしたライトは、ギョっとした表情をヒーロー教官に向ける。


 間違いなく更生ルームに連れてかれた。ましてや有害雑草を食べさせるとは。


 「……あれ? (よもぎ)じゃなかったか?」


 ヒーロー教官は斜め下を向きながら渋い表情で自問していた。


 「その男性はすぐさま病院に緊急搬送されました。近くに居た恋人も「いちゃついていたら知らない中年の男が現れ唐突に彼氏を引っ張っていくと突然消え、ふと戻って来た彼氏は無様な状態だった。そして、その見知らぬ男は愉快な顔で恋人のバイクを盗んで走らせて行った」と。貴方は男性を拉致しただけでなく有害雑草を食べさせた。誘拐罪や窃盗罪、傷害罪。下手をしたら殺人罪に当たりますよ」


 ライトは黒人の警察官の呆れながら話す内容にゾッとしたのか、目を大きく開かせ、言葉が出てこなかった。


 短い時間でフルコースな罪状を背負っていたヒーロー教官。


 しかし、こんな説明を聞かされても、ヒーロー教官の心は折れなかった。


 「ふん。あの男がベロチューしていた女性は()()しているようにも思えた。そこで私があの男を更生し、罰としてバイクを没収した。そのバイクを私が有効活用するため、気分転換のために乗って走らせた。一連の流れを見ても全てが丸く収まっている。これのどこが異状だと言うんだ?」


 ヒーロー教官は黒人の警察官に食って掛かるように言い寄っていく。


 「全てです。()()していたなんてのは弁明にもなりませんよ。言いがかりにも程がある」


 そんな黒人の警察官は辟易とそう答える。


 更に黒人の警察官は嫌悪感でも抱くように畳みかけるように言ってくる。


 「そもそも、誰がどう見てもこんなの貴方に非があるに決まっているじゃないですか。何故それに自覚が持てないのです? ハッキリ言って異常ですよ」


 「あのう。ヒーロー教官もその男性に()()されたらしく、その点を踏まえてどうか寛大な処置を」


 ライトは少しでもヒーロー教官を庇おうと、恐れ多いような素振りで聞いてみる。


 「()()された時点で警察に相談すればよかったんですよ。この人の行為は警察でもないの取り締まるどころか無理やりドクゼリを食べさせた。事件の規模の火に油を注ぐようなものなんです」


 黒人の警察官は鋭い目付きをライトに向ける。


 正論すぎて何も言葉が出てこないライトは、口元を片手で押さえ、何か方法がないか苦悶の表情で思案する。

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