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8章 大差 2話

 しかし、ヒーロー教官の笑っていた理由はやはり違った。


 「……乗った」


 「えっっ!」


 誇らし気に語るヒーロー教官。


 ライトは目を点にさせ再び驚愕する。


 すると。


 「すいませんが、ちょっといいですか?」


 ヒーロー教官の背後から、いつの間にか黒人男性の警察官が現れた。


 完全に職務質問する流れ。


 どうやら、ヒーロー教官は不審者に思われたらしい。


 この展開は在り来たりかもしれないが、誰もが肝を冷やすのは間違いない。


 「なんだ警察か。驚かせるな」


 気怠そうに言うヒーロー教官。


 いやいや、この状況で誰よりも驚かなきゃいけないのは貴方だよ。


 なんで平然どころか、つまらなさそうに出来るのやら。


 「それは、貴方のバイクですか?」


 (いぶか)しい目をヒーロー教官に向ける黒人の警察官。


 「ああ、そうだ」


 なんと、ヒーロー教官は堂々とした面持ちで嘘をついた。


 ライトは口元に手を当て、言葉が上手く出てこなかった。


 嘘です。と言ってしまいたいが、ヒーロー教官の手前、顔に泥を塗ってしまうのでは、と思ってしまうライト。


 間違いではあるが、ライトはヒーロー教官を尊敬している分、尚の事、ヒーロー教官を庇おう、と脳裏に働きかけているため、正しい行動が出来ずにいた。


 ライトは軽いパニックになっていたのだ。


 「免許証を見せて下さい」


 すると、黒人の警察官が淡々とそう言ってくる。


 既に、黒人の警察官の頭の中では、ヒーロー教官が無免許である事を予期しているかのように警戒心を強めていた。


 「ああ、待ってろ」


 ヒーロー教官は動揺する事無く、無いはずの免許証を見せるため、ポケットを探る。


 ライトは、一体何をする気なのか、と眉を顰め、ヒーロー教官の動作を監視する。


 黒人の男性も目を細め、ヒーロー教官の出方を注意深く伺っていた。


 間違いなく黒だ、と言う目。


 「これだ」


 そこで、ヒーロー教官はふてぶてしい態度で、免許証? を手渡した。


 「……これ、障害者手帳ですよね?」


 「えっ! 障害者手帳⁉」


 眉を顰めながらヒーロー教官に伺ってくる黒人の警察官。


 ライトは、ヒーロー教官が障害者手帳を持っていた事自体に驚いていた。


 絶対に免許証は手渡さないと思っていたが、まさか障害者手帳をヒーロー教官が所持していたとは。


 「その最後のページをよく見て見ろ」


 何故か()(かん)な表情をするヒーロー教官。


 まるで、どこを見ているんだ、とでも言いたげな表情。


 黒人の男性は免許証を所持していない時点で署に連行していくつもりだったが、念のため障害者手帳の最後のページをめくってみた。


 すると、そこには本来記載されていないはずの内容が書かれていた。


 「『これを記載された障害者手帳を持つヒーロー教官のみに、どの施設の通行も無免許による乗車、搭乗の交通や飛行、航走など無許可で容認される。またヒーロー教官を阻害する者は全て(あっ)(かん)と見なし、即座に賠償金五百万円をヒーロー教官に支払うように。イグレシア国、大統領、クリナ・セプトンの名において命じる』」


 最後の一ページに記載されている内容を淡々と読み上げ終えた黒人の男性は肩から力が抜け呆れた表情をヒーロー教官に向ける。


 しかも、それは手書き。


 そして、何故かヒーロー教官はドヤ顔をしていた。


 ちなみに、クリナ・セプトンとはイグレシア国の現大統領である。


 ライトはと言うと、片手を額に当てながら俯き大きなため息を吐いていた。


 聞いているだけで、心労が絶えないような表情。


 「なるほど。そう言う事ですか」


 黒人の男性は遠い目をヒーロー教官に向ける。


 呆れるを通り越して、こんな相手に職務質問をする自分が情けなくなっているような、そんな面持ちが伺えた。


 「どうだ。これで分かったろ。今なら職務質問した事は不問にしてやる。五百万円も払うのは嫌だろ?」


 まるで、自分が優位に立っているかのように自信満々な表情を黒人の男性に向けるヒーロー教官。


 どういう神経をしているのやら。

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