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7章 孤高の定め 2話

 「何よ。まるで幽霊にあったみたいな反応ね。さっき会ったばかりじゃない」


 エレアはオムライスが置いてあるトレイを両手に持ちながら微笑する。


 「ああ……そう、だったね」


 ライトはおどおどしたような様子だった。


 「隣、良いかしら?」


 エレアは爽やかな表情で同じ質問をする。


 「――うん。もちろん良いよ」


 我に返ったライトは少しテンパりながら開いている席に片手を差し向ける。


 「ありがと」


 エレアは満面の笑みでそう言いながら開いている席に向かい、トレイをテーブルに置き椅子に座る。


 周囲の生徒達は、ライトに寄り付く人間が居た事に驚いていたのか、信じられない、と言う面持ちだった。


 そんな周囲の目を気にする事なく、オムライスを頬張っていたエレア。


 ライトは周りの目が気になり、落ち着かない様子でナポリタンを啜る。


 「ねえライト。貴方から見たら周囲の評価は気になるでしょうけど、それでも屈したら駄目。貴方の人生なんだから、むしろ戦う意思で向かわないと、人生、損しちゃうわよ」


 エレアはライトの表情から周囲を気にしている事を察し、真摯な面持ちで助言する。


 ライトの悪名はエレアも既知していた。


 「うん。ただ、どうしても、今のままでも、自分のために生きるだけでも駄目なんだ。そんな思想じゃ、必ず何かを見落とす。僕が目指す……ヒーローにはなれない」


 浮かない表情で自身の胸の内を吐露していたライト。


 うっかり自分がヒーローになりたいと口を滑らせてしまった。


 まだ二回しか会っていない相手に。


 「ああ、ごめんね。会って間もない君にこんな事言って」


 その事を、ふと思い出したライトは慌てだす。


 だが、エレアは真っ直ぐな面持ちで、そんな事は無い、と首を横に軽く振る。


 「とても素晴らしいと思うわ。ただそうなると、修羅の道になるわね」


 どこか切ない瞳になるエレア。


 ライトは「えっ?」と口にし首を傾げる。


 そして、エレアは続けて喋る。


 「私ね、こう思うの。誰かを救うにはまず自分が幸福になるべき、何て言う人もいるけど、実際には傷を負った人を救うには同じ目線、つまり同じ境遇の人でないと、救う人の心に寄り添えないんじゃないのかな、て。だから私に取ってのヒーロー像は、常に傷を負う人、と言うイメージが強いの。だって、不幸の人が幸福な人に手を指し伸ばされても、それを拒むのは道理でしょ。嫉妬するだけよ」


 「……そう、だね」


 ライトは思いの他ショックだった。


 自分が目指すヒーローと言うイメージは不屈の精神で何があっても笑顔であり続ける者。ヒーローもまた幸福であると言う事


 だが、エレアの話を聞いていると、ヒーローはそんな逆境や(こく)(ぐう)に身を置きながらも笑顔でいなければいけないのか、とつい思ってしまう。


 今の状況にすら打ちのめされかけていると言うのに、こんな(ぜい)(じゃく)な心構えでは、到底、人を救う事などできない。


 ライトは俯き、どうすればいいのか、と自問自答する。


 しかし、考えれば考える程、レールの先が深い闇に飲み込まれるような思いだった。


 「ライト。そんなに気落ちしないで。私はただ貴方に――」


 エレアが懸命に何かを言いかけたその時だった。


 ドカン!


 その時、ライトの背後から椅子が強く蹴られた。


 唐突に身に走った衝撃に驚いたライトはギョッとした表情で後ろを振り向く。


 すると、そこにはライトを睨みつけるレイベとルメオン達が居た。


 取り巻きも合わせた五人の男子達。


 今にでも一波乱ありそうな重苦しい空気が食堂内を充満させる。


 その様子に気付いた食堂に居る生徒達は、恐怖するでもなく、レイベ達の怒りの矛先が一体何なのか、と言うのは逸早く察していた。


 すぐに、食堂に居た他の生徒達も、ライトを睨みつける。


 「よう害虫。食堂を腐らせて楽しいか?」


 レイベが先陣を切って、ライトを蔑む。


 ライトは動揺していた。


 しかし、この事態を(とう)()してはならない、とライトの情念が自身に囁くようだった。


 ライトは真っ直ぐな目でレイベ達を見る。


 それが気に食わなかったのか、レイベは強く舌打ちをする。


 そこで、この食堂の中で誰よりも殺意を匂わせていたルメオンがライトの前にゆっくりと歩いてくる。


 それを目にしたライトはルメオンの右手を(いち)(べつ)した。


 ルメオンの右手には包帯が巻かれていた。


 一カ月前、ライトに噛みちぎられかけた指がまだ、完全に完治していない様子だった。


 ルメオンは、今にでもライトに飛び掛かり殺しかねない程の、形相をしている。


 導火線に火がつけられているような状態。


 怒りと殺意に満ちた、まるで(おん)(てき)を目にしているかのような。


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