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6章 急変と、ようやくの出会い 9話

 そんな中、タルヴォは窓を開けると、懐から煙草(たばこ)を取り出し、火を付け吸うと、疲れ切ったため息を吐きながら煙を吐く。


 すると。


 「オラー! 出てこいやクソ警察!」


 「何が子供の未来を守るだ! 政府もゴミだが、お前ら番犬も子供の将来を奪う正義の名を被った不純な悪魔だ!」


 株式会社の隣の警察署の前では、大勢の市民による抗議活動が行われていた。


 その数は三百人を超える。


 商店街での銃撃事件はもちろんその日の内にニュースで取り上げられていた。


 いくら加害者とは言え、子供を撃ち殺す事には、さすがの市民も容認できず嫌悪感を抱く者が想像以上に多かったのだ。


 テレビだけでなくネットや新聞の記事にも掲載され、その情報の中には子供が(かい)(けつ)(じん)ではないのか? と言う懸念が晒されていた。


 中には子供自体を非難の声で(はや)し立てる者とそうでない観点の人同士の喧嘩などの障害事件が後を絶えないでいた。


 いくら(かい)(けつ)(じん)と噂されている事件を引き起こした子供が反社会的な人格者でも、ようやく少子化率が好転してきたと言うのに。


 仮に(かい)(けつ)(じん)の正体が子供だと言う決定的な証拠が見つかれば、今の時代の子供は一体どうなってしまうのか……。


 その喧騒を耳にしていたミリイは酷く塞ぎ込んだ表情になってしまう。


 キーボードを打つその指先も、いつの間にか止まってしまった。


 それを確認したタルヴォはすぐに窓を閉め、懐から携帯用の灰皿を取り出し煙草(たばこ)の火を消した。


 「そう落ち込むことはねえぞ。いくら相手が子供だったとはいえ、銃を手にし人を撃ち殺せば立派な犯罪者だ。俺ら警察が市民を守るためには、時には手を汚さなきゃならない時もある。そのために汚名を着せられても、ああやって抗議活動している連中を間接的に救わなきゃならないのは俺も虫の居所が悪い。要するに(いっ)()(いち)(ゆう)()()(ぞう)(ごん)する勝手な連中見たいに俺らも勝手に人を助ければいいんだよ。少なくとも俺らは奴らの勝手気ままに比べれば筋は通ってる」


 タルヴォは片手をポケットにしまいながらミリイに向け渋い表情で語る。


 「もちろんおっしゃりたい事は分かります。私も警察の一人として感情論で職務に就く気はありません。でも、分かっていても、……一人の命を奪う事に(ちゅう)(ちょ)し、後悔してしまうんです。それを制御しようにも自発的でもないのに自然と、悲しくなり嫌になる自分が……いて」


 ミリイの表情は雲行きが増し、思わず目を瞑る。


 目を瞑っていると、自然に涙を流してしまうミリイ。


 タルヴォは切ない目をミリイに向ける。


 見ていて悔やみきれないような渋い表情になっていくタルヴォ。


 「それは嬢ちゃんの一長一短の部分だわな。デカとしては半人前だが人としては立派な人格者だ。人を撃ち殺せばその時点で人殺しだが、嬢ちゃんの引き金の指先に込められた優しさは、俺ら見たいに何も考えず、時には殺意を込めて撃つよりも人間らしくて良い。だからそのままで良いんじゃないか?」


 「……えっ?」


 ミリイは呆けたような表情でタルヴォに顔を向ける。


 「そのまま引きずって行けば良いんだよ。結局の所、職務なんてのは人間が生きるために必要な一部のプロセス(かてい)だ。だが俺らは何よりも人間で居続ける事が必要なんだ。その方が胸張って生涯を終えられる。それこそ生まれた甲斐があるってもんだ。だから嬢ちゃんは無くすなよ。俺らは人としてこの世に生を受けたんだからな」


 大雑把な口調から最後に明一杯、言の葉に優しさを込めるタルヴォは満面な笑みを浮かべる。


 まるで、童心に帰ったかのように無邪気に。


 「――はい! ありがとうございます」


 涙を指先で拭いながら、立ち上がり頭を下げるミリイ。


 それを見たタルヴォは安堵した様子になる。


 「ま、辛くなったら、そこで爆睡してる馬鹿をどついてやりゃいい」


 フッ、とタルヴォはそう笑うとミリイも笑みを浮かばせながらラーシュに目線を向ける。


 「……ミリイちゃん、肝が短小……むにゃむにゃ」


 「はあ!」


 ラーシュの寝言に半ギレしたミリイは、ラーシュの(こめ)(かみ)にデコピンを入れる。


 「グギョ! ……ぐごー」


 一瞬飛び跳ねるような動作になったが、すぐに眠りに就くラーシュ。


 「フハハハッ」


 それを見ていたタルヴォは家庭の団らんのような温かい()みで(わら)う。


 ミリイはラーシュの反応が面白くなり何度もデコピンを入れ、その度にラーシュは素っ頓狂なリアクションを取っては寝る。


 気持ちが穏やかになったタルヴォは、再び窓の外から覗ける警察署前で抗議活動をしている市民に目を向ける。


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