6章 急変と、ようやくの出会い 8話
「犯人である怪傑人の狙いなんて、端から見当がつかなかったんだ。だが、今回の一件で無差別殺人の線も一概に無いとは言い切れない。だがあのシャルナと言う男の口ぶりだと、やはり何かしら目的があるように思えてならないのも事実だしな」
渋い表情で腕を組むタルヴォ。
「ええ。商店街での襲撃犯の狙いと言うより、怪傑人の狙いと言う所に着目する方が見えないものも見えてきそうな気がします。それにあの事件で新たな手掛かりを手に入れましたしね」
ミリイはそう言うと、タルヴォとラーシュの所に向かい一枚の資料を配る。
「商店街であのガキんちょ達が使っていた銃だよな」
ラーシュは資料に記載されていた銃の種類と、その性能に目を通しながらぼやくように言う。
「うん。あの子供達が使用していたAK―74。これはアサルトライフルの中でも殺傷能力の高い銃。加えて、過去に怪傑人と思われるバンの中に乗車していた覆面達が手にしていたアサルトライフルの種類と一致している」
ミリイは資料を手にしながらボードの前でそう言う。
「それに商店街に増援として駆けつけた子供達の乗車していたバンも、何故か二年前、怪傑人が乗車していたバンの車種と一致している。二年前、高速道路の防犯カメラで撮られた写真は警察や政府の極一部の人間しか知らない物だ。やはり模倣犯の線はなく、商店街の子供達は怪傑人のメンバーの可能性が決定的な証拠とも言えるしな」
タルヴォは資料に載せられていた、二年前の怪傑人と思われる者達がバンに乗車している写真を眺めながら推測する。
仮に模倣犯なら、ここまで一致する物を揃える事は不可能と見なしていた光を照らす(ライトイルミネイト)達。
だからこそ、理解していても怪傑人の正体が子供だったと言う事が腑に落ちない。
その理由は。
「でも、ガキんちょの年齢でAK―74のアサルトライフルなんてどうやって入手したんだ? ましてやこの銃は軍事用だぜ。銃規制のこの国でどうやって……」
ラーシュは顎を摘まみ思考を回すが、これと言った銃の入手先が思い浮かばなかった。
イグレシア国では銃規制がされ、一般人が銃を入手するのはほぼ不可能なのだ。
ネットショップや海外からの輸出品なども細かく税関にチェックされていたため、やはり国外からの入手もほぼ不可能。
「輸出品は税関がチェックしているから除外するとして、後は密輸の線だが、これは疑ったら切りがねえ。仮に密輸品だったとしたら、税関職員に賄賂などが絡んでも不思議じゃないが、税関職員は二年前から身内同士の監視や業務報告が徹底して取り行われているうえ、税関検査中の現場も全て監視カメラでチェックされている。今になって税関職員の賄賂が発覚する事はないだろうな」
タルヴォは、ボードに書かれている文字を全体的に見ながら渋い表情で喋る。
「このAK―74のアサルトライフルは国外から輸出でもなえれば密輸品でもない。となるとやっぱり、イグレシア国で製造された物、て事?」
「うん。でもイグレシア国の計三十の軍事施設でも税関と同じく徹底的に管理されているから、軍事施設から横流しされている訳じゃないと思う。おそらく怪傑人達による独自の製造ルートがある事の方が合理的な考えかも」
ラーシュは眉を顰めながら手にしている資料に目を通しながら、ぼやくように言うと、ミリイは軽く頷き、浮かない表情で答える。
半月も不眠不休で捜査していため、疲労がその表情からも伺えてきた。
社内は少しづつ空気が淀んでいく。
「ふう。少し休憩しよう。今更慌てたってろくな結果に繋がらねえし、レイジックの奴がそろそろ帰ってくる頃だ。その時に銃の製造ルートの特定と、怪傑人と身元不明の子供の断定の証拠を集めるぞ」
タルヴォが気を利かせてくれたのか、落ち着いた様子で喋る。
「はい」
「……りょーかい」
ミリイは真面目な面持ちで返事をするが、ラーシュは気が抜けるようなダラダラした態度で返事をする。
タルヴォも疲れ切ったため息を吐き捨て、窓に向かう。
「にしても、怪傑人の後を追わなきゃいけないってのに、よりによってあのガキんちょ達三四人の民辺調査とかどんだけ時間食ったんだか。おまけにその半数以上が身元不明のガキだったなんて、半分以上調べて損したぜ」
辟易とした態度で語るラーシュ。
「そんな事言わないの。むしろ必要な証拠だよ。半数以上の子供が国勢調査のバンクに該当していない時点で大問題なんだから。国の人や世帯や実態を把握しないと、経済や産業や就職にも多大な影響を――」
「――分かった! 分かりましたから!」
お母さん口調で国税調査の必要性を説明しようとするミリイに対し、ラーシュはうんざりするような態度でミリイの説明を遮る。
「そういやあ、シャルナ・ヴァースキーの名前も国税調査のバンクになかったんだよな? 知らない間にどれだけ身元不明の人間でこの国は溢れ返ってるんだか」
ダラダラとした姿勢で他人事のように口にするラーシュ。
「それもレイジックさんが来てから話そうよ」
ミリイはそう言いながら、次の捜査のための問題点と議題のテーマの資料を作成するため、キーボードを打ちながら喋る。
「へいへい分かりました。んじゃ俺はそれまで過眠取ってるから、お休み……ぐごー」
めんどくさそうに喋り終えると、安眠マスクをデスクの引き出しから取り出し目に付け、椅子に凭れながら二秒も経たず熟睡し始めたラーシュ。
ラーシュの隣で一生懸命仕事をしていたミリイは思わず殺意が込み上がりそうになるような堪える表情をしていた。




