6章 急変と、ようやくの出会い 7話
ライトが退院したその半月後。
カモフラージュにしていた株式会社では、怪傑人の捜査が行われていた。
光を照らす(ライトイルミネイト)達はお互いに知恵を絞って、怪傑人の特定を急いでいた。
「どうなってんだ。まさか怪傑人の正体は子供だったって事か?」
ラーシュは頭を抱えながら困惑気味だった。
「そう断定するにはまだ早いぜ。あの電話の主は声からして確実に二十は過ぎてたはずだ。もしかしたら何らかの手口で一般の子供達を籠絡していた可能性もある」
タルヴォは眉を顰めながら事件の経緯が書かれたボードを見て、事件の関連性を探る。
「でも、その子供に関しても不可思議と言いますか、不可解な点が出てきましたしね」
ミリイはボードの横に立ち、顎を摘まみながらライト達を襲撃した子供達に着目する。
「ああ。新しくボッチーマンに就任したライトって言うぼうずの同級生が、あの襲撃犯の一人だった。他にも普段学校に通っている品行方正の子供などもそのメンバーだった。ここまでは襲撃犯の身元が特定できる事は普通なんだが……問題なのは……」
タルヴォは納得がいかない面持ちでボードを見つめる。
「はい。問題なのは、身元不明な子供があの襲撃犯の一員だったと言う、不可解な点です」
ミリイも苦悶の表情でボードを見つめる。
ボードには、怪傑人の主犯格と思われるシャルナの曖昧な顔が描かれ、商店街で襲撃される前にヒーロー教官が被害女性からかけられた電話の内容。身元が特定されている子供の名前。そして、襲撃前に光を照らす(ライトイルミネイト)にかけられた脅迫電話の内容が書かれていた。
「事件の被害者、五十九人が死亡。そして、襲撃者、計三十四人も死亡か」
「ほんとめちゃくちゃだよな」
タルヴォが事件の被害者と加害者の顔を思い浮かべながら悲し気にそう語ると、ラーシュは辟易とした態度で思いの内を口にする。
「それと、偽の爆弾が取り付けられていた被害女性の名前はマルマ・チェミニグさん。実はマルマさん、ご主人にDVを受けていたらしく、元から痣が酷かったそうです。更に怪傑人と思われる子供達に拉致され、暴行を受けた後、偽の爆弾を取り付けられ、あの商店街付近に放置された事が分かりました」
ミリイは心を痛めたかのようにマルマの経緯を口にする。
「ガキが温厚な女性を拉致して暴行か……ほんと世の中クソだよな。……俺、ダークヒーローにでも転職しようかなぁ」
上の空と言った様子のラーシュは天井眺めながらとんでもない事を口にする。
「おいおい、アホな事言うなよラーシュ。警察がそんな事言ってら、それこそ世界は終わるぞ」
タルヴォはやれやれ、と言った様子でラーシュに指摘する。
ミリイは事件で、自分が殺めた犯人達や救えなかった被害達の顔を思い浮かべながら、心が締め付けられるような思いだった。
いつもの調子が出せないミリイ。
「そういやあ、ライト君の同級生のクリア・デフファソン、て言う襲撃犯の一人はライト君を恨んでたんだろ?」
「その容疑者の自宅の部屋から、ライトのぼうずの顔写真がマネキンの顔に貼られていて、そのマネキンを包丁でズタズタにしていたうえ、最近、ライトのぼうずにも殴られてたらしいからな」
ラーシュの素朴な疑問にタルヴォは調査で得た情報を口にする。
「訳も分からず殴られたって目撃した同級生は口にしていたが、ありゃ何かあるな。その現場に居た教師も何か隠してる感じだった」
光を照らす(ライトイルミネイト)達はクリア・デフファソンの情報収集のためワンオンス高校に行き、クリアのゆかりのある知人や、教師達の事情聴取をしていた。
そこで、光を照らす(ライトイルミネイト)達は、クリアだけでなく、ワンオンス高校に通う殆どの生徒や教師達がライトに嫌悪感を抱いている事を知り、ライトの普段の素行が悪い、と知らされたが、何か隠している様子が伺えたため、一概にライトに全て責任があるとは断定できなかった。
「実はライト君が虐めの被害者の可能性もありそうだったしな。とにかくその件は、怪傑人をとっつ構えてから解決しようぜ。それよりさっきの話に戻るけどさ、実はあの襲撃犯達の狙いがライト君で、マルマ、て人はライト君を釣るための餌だったりしないか?」
ラーシュなりの推理だったが、タルヴォやミリイは疑問の表情をしていた。
「それだと、クリア・デフファソン以外の子供もライトのぼうずに恨みがある事になるぞ。殺そうとする事を前提で撃つとなると、それぐらいの理由はあるだろ。ましてや子供は感情的に行動する傾向がある。となると、やはりそれ相応の恨みや因縁がないと成り立たないと思うぞ。おまけに他の子供にはライトのぼうずと接点はなかったしな」
「それに、ライト君があの商店街付近の現場に行く事を予め想定してないと、ラーシュ君の言った推理は前提すら成立しないよ」
タルヴォとミリイに穴がある事をボロクソに指摘されたラーシュは項垂れながら大きなため息を吐いた。




