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6章 急変と、ようやくの出会い 5話

 ライトを見ているだけで辛くなってしまったキャンディーは思わず目を(つむ)ってしまう。


 ガディアも居た(たま)れない思いで目線をライトから横に逸らす。


 すると、キャンディーがこのまま同情しているだけではライトが奮起する気力さえも奪ってしまう、と思い、ゆっくりと目を開く。


 「ライト君。君はこれからどうしたい? 何を望む?」


 キャンディーはライトを立ち直らせるために、()(りょ)する訳でもなければ、()(りょ)したわけでもない。


 ただ、ライトの意思をライト自身に自覚させ、改めて立ち上がれる起爆剤にでもなって欲しいと言うものだった。


 その言葉にライトは、我に返ったかのように、今までぼやけていた思考に正気を取り戻すと、自身で願っていた目的が呼び起こされた。


 「……(かい)(けつ)(じん)を捕まえて父の死の真相を解き明かしたいです。それに僕はまだ、ヒーローとしての答えを見つけていません。自分でそれを解明し、一人でも多くの人を笑顔にしたい。それが僕の望みです」


 曇りなき眼でキャンディーにそう告げるライト。


 すると、キャンディーは、フッと笑う。


 「……変、でしょうか?」


 キャンディーの反応を見たライトは、不安な面持ちでそう聞く。


 「いや。尊敬すべき目的だ。君のような人材をボッチーマンに向かい入れた事を、私は誇りに思う」


 キャンディーは揺るぎない姿勢でそう答えると、ライトは安堵し「ありがとうございます」と笑顔でそう言う。


 ガディアもホッとし、表情が柔らかくなった。


 「そうだ。ライト君。君の変わりに生活保護申請用紙を我々から区役所に提出してきた。だからその件に付いては安心してくれ」


 「すいません。本来なら母が行くべきだったんですが、本当にご迷惑をおかけしました」


 ガディアの言葉にライトは真摯な面持ちでそう答える。


 実際に一八歳未満のライトが区役所に生活保護申請用紙を渡しても意味がなく、母親であるカナリアが行くべきだった所を、代理人として特別に区役所がボッチーマンからの提出を容認したのだ。


 これもまた、政府だから出来る取引だった。


 「気にしなくていい。君は休養を優先してくれ。では、あまり長いしてても君に心労させてしまうし、私達はこの辺で失礼するよ」


 切りの良い所と判断したキャンディーが椅子から立ち上がる。


 「そんな事は無いですよ。お二人共、御足労頂きありがとうございます」


 ライトは座りながらキャンディーとガディアに向け深々と頭を下げる。


 「お大事に」


 キャンディーが頬に笑みを浮かばせながらそう言うと、先にドアの方に向かって行く。


 「じゃあね、ライト君。君の事情聴取は予定通り行う予定だ。都合が悪くなったら、いつでもボッチーマンに連絡をくれ」


 「はい」


 ガディアとライトは笑顔を浮かべながら言葉を交わす。


 「それとだ、私の方からも言うつもりなんだけど、ヒーロー教官にこう伝えてくれないか……これ以上ポルノサイトを開かないでくれ、と。ワンクリック請求や架空請求が後を絶たないんだ」


 急にばつが悪い顔で、言うのを躊躇(ためら)いながら口にするガディア。


 ワンクリック請求や架空請求がボッチーマンに来る度に、キャンディーやガディアは重いため息を吐き、気まずくなっていたのだ。


 ライトは、ボッチーマンのオフィスでの二人が辟易としている様子を想像しながら、「は、はい」と申し訳なさそうに言う。


 「うん。それじゃお大事に」


 ガディアは気持ちを切り替え、笑みを浮かばせながらそう言うと、扉の前に居たキャンディーがライトに向け、軽く一礼し病室を出ていき、ガディアもその後を続いていった。


 静寂となった病室。


 ライトは一人になると、暗くなった窓の外を見ながら、まだ見ぬ明日に、希望を求め、精進する事を誓った。


 ふと、そこで流れ星が見えたライト。


 ライトは、ずば抜けた動体視力と、反射神経を壮大な都市(グランタウン)から得ていたため、流れ星が流れ切る前に「世界が平和になるように」と、とんでもない早口で言い切った。


 機械音声か、と間違われるような、独語の度を越したような喋り方。


 「いや、こんな事が出来るようになっても、願いなんて叶う訳ないよな」


 思わず童心に帰ったかのように流れ星を見て願いを口にしてしまった自分に呆れるライトだった。


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