表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/166

6章 急変と、ようやくの出会い 4話

 ライトはその様子を怖々としながら、カナリアと一定の距離を保つ。


 ()(かつ)に近付けなかった。


 「――お、お願い! 私にこれ以上乱暴しないで! 息子が待ってるの!」


 明らかに、ジェイルを自分の息子と認識していない様子のカナリア。


 怯え切りながら悲鳴でも上げているかのような態度だった。


 「……僕だよ。母さん。息子のライト・ヴァイスだ」


 ライトは動揺しながらも、出来るだけ平常心でゆったりとした声で、カナリアを説得する。


 しかし、カナリアは……。


 「知らないわ! 私の息子なんて知らない! お願いだからほっておいて!」


 支離滅裂な言動。


 その場で泣きじゃくるカナリア。


 ライトはショックのあまり、声が出てこなかった。


 口を開けたまま、思考がクリアとなり、ただ、ただ、目の前が真っ白になっていく。


 「――はあっ! はあっっ!」


 そこで、ライトはパニックが限界を超え、動悸が激しくなっていき、過呼吸になってしまう。


 呼吸が乱れ、視界も定まらない。


 何もかもが、ぐちゃぐちゃになるようなイメージしか湧いてこないライト。


 そんなライトなど見向きもしないで、カナリアは顔を両膝で隠しながら泣き続けている。


 そして、ライトは動悸が収まらないまま、その場で意識を失い、床で俯せて倒れてしまった。

 



 夜の十九時。


 ライトは再びスウェーズ市立総合病院に運ばれていた。


 個室のベットで横になっていたライト。


 カナリアの悲鳴にただ事ではない、と思った隣の部屋の住民が、ライトの部屋の様子を見に行き、その現場を目撃した住民が救急車を呼んで事なきを得たのだ。


 そして、何の前触れも無く、ライトが目を開ける。


 「……こ、ここは」


 天井をぼんやりと見つめるライト。


 そして、無意識に顔を個室のドア側の横に向ける。


 「起きたかね」


 すると、横になっているライトの横で椅子に座っていたのは、なんとキャンディー所長とその横に立っていたガディアだった。


 「きゃ、キャンディーさんにガディアさん! どうして!」


 思わぬ人物と対面し、思わず上体を起こすライト。


 「ライト君。落ち着いて。ここはスウェーズ市立総合病院で、私達は君の見舞いに来たんだ」


 ガディアは物腰良く喋り、ライトを落ち着かせる。


 目を大きく開き、徐々に俯いていくライト。


 そして、母であるカナリアの顔が脳裏を過る。


 「僕の母さんは?」


 キャンディー達なら事情を知っている、と思ったライトは、恐る恐る聞いてみた。


 「大丈夫だ。命に別状はない。ただ、君のお母さんの症状だが、パニック障害と診断されたらしい。今はこの病院で入院し、眠っている」


 冷静に喋るキャンディー。


 ライトは心に穴が開いたかのように悄然としてしまう。


 カナリアの症状の悪化は覚悟していたとはいえ、やはり受け入れる許容範囲を超えたかのように、ショックと悲しい水が、心の壺から溢れるような思いだった。


 耐えきれなかった。


 だからライトはパニック発作を起こした。


 その必然から逃れられる事など誰が出来たか。


 「本当にすまない。我々が安易に、障害者である君をボッチーマンに起用し、あのような悲劇に見舞わせてしまった。その不運が君の母上にも影響を及ぼしたのかもしれない。重ね重ね非礼を詫びさせて欲しい」


 誠意の籠った謝罪の言葉の後に、キャンディーは立ち上がると、深々と頭を下げ、横に居るガディアも身を引き締めた表情で同じく頭を下げる。


 「……いえ、ボッチーマンに入ったのは僕の意思です。それに母の病状の悪化は予想していましたし、覚悟もしていました。キャンディーさんやガディアさんが頭を下げる事ではありません。どうか、顔を上げて下さい」


 ライトはどこか消沈したような表情ではあったが、その言葉に嘘偽りはなかった。


 キャンディーとガディアはゆっくりと頭を上げ、ライトの情の深さに感謝した。


 「ありがとう」


 「いえ。ところで、僕の母は、どの病室に居るんですか?」


 ライトは気に掛かるような表情でカナリアの身を案じていた。


 「三階の二〇三号室に居る。けど、今は合わない方がいい。過去にセクハラを受けた記憶と、どの男性とも重ね合わせてしまい、男性を見ただけでパニックになる。今は鎮静剤を打って安静にし、必要な薬も服用させていくつもりだ、と医師がそう言っていた、面会は記憶の(こん)(だく)が収まるまでの辛抱だ」


 ガディアが冷静にそう説明すると、ライトは納得し、「……そう、ですか」と俯きながらそう言う。


 納得したと言っても、やはり事実を受け入れるにはあまりにもライトはまだ幼い。


 未成熟とも言っていいだろう。


 キャンディーとガディアもライトの気持ちに寄り添えば寄り添う程、共感してしまい、心が締め付けられそうになってしまう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ