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1章 悲惨な日常 4話

 それが誰であれ、ライトは怒りをまき散らしたいがために神経を研ぎすませていた。

  

 我慢する必要はない。怒りの発端の悪党共に天罰を、と誰かがライトに囁いでいるかのようだった。


 もう既に感情の制御が利かなくなる寸前だった。


 そこで、ルメオンは手の甲ぐらいのサイズの青く透き通ったビー玉をポケットから取り出す。


 見た目だけでも相当な堅牢な物だと伺える。


 またリビアムが黒板を見ている隙を突いて、ビー玉をライトの後頭部に向け力強く(とう)(てき)する。


 ビー玉はライトの後頭部に鈍い音を立てて当たり、床に落ちる。


 そこからのライトは今までのような怯懦でもなければ、不安な思いなど持ち合わせてはいなかった。


 ただならぬ空気がライトから放たれている事に、教室にいる全員は気付けなかった。


 「貴様! いい加減に!」


 その音が授業の妨げと判断したリビアムがライトに鋭い目を向け、言葉を最後まで言い切らずズカズカとライトに向かって歩いてくる。


 ライトから放たれる歪な空気は、徐々に殺意へと変わっていく。


 後ろにいたレイベとその取り巻きであるルメオン達は何も気付かず、今度はリビアムに聞こえる事などお構いなしに、哄笑していた。


 奇天烈で品性の欠片もない悪意に満ちた笑み。


 ライトの後頭部から負傷していたか所から血が滴り落ちてきた。


 その血の雫は床に向けポツンと落ちた。


 それと同時にライトの中で凍っていた怒りの()(とう)の波が粉々に砕け散っていく。


 怒りや憎しみを凍らせたそれらはライトにとって枷だった。人に迷惑を掛けないと言う思いで、自身で付けた枷。それが破砕されたとなると、もうライトを静止させる事は誰にも出来ない。


 枷が外れたのではなく、枷が砕け散ったのだ。


 リビアムがライトの所に着く前にライトは勢いよく立ち上がると、レイベ達の所に向かって行く。


 その表情は獣と言うより、生物の枠から外れた、魔獣に近い物を感じさせた。


 レイベとルメオン達はライトの異変に気付いていても、それでも哄笑する事を止めなかった。


 近づいて来ても気にも留めないような態度。


 しかし、ライトは(ちゅう)(ちょ)なく、取り巻きの一人男の顔を思いっきり殴った。


 殴られた男はクリア・デフファソン。小柄で猿のような表情をしている。


 ライトの腕力は常人の4倍はある。


 その腕力で殴られたクリアは後ろの壁にまで叩きつけられる程、吹っ飛んだ。


 「てめえ! 何しやがる!」


 レイベの取り巻きたちは激怒し一斉に立ち上がりライトを押さえつける。


 ライトの背後に回り、首に腕を回し、締め付けたり、腹に両腕を伸ばし掴んだり、更にライトの左右に別れた四人は両腕と両足を押さえつけるなどしていた。


 他の生徒達はパニックになり、リビアムは(ろう)(ばい)してライトの席の前で動けないでいた。


 突っ立ったまま取り押さえられたライトは動揺もせず泰然としていた。


 まるで何とも思っていない様子。


 ライトのその獲物を捕らえるようなハンターの目はルメオンを捕らえていた。


 「この野郎。くたばれ!」


 ルメオンは怒号でそう言うと、いつの間に右手に装着していたメリケンでライトの頬を殴ってきた。


 殴られてもライトは()(とう)としていた。


 斬れた唇から血が滴り落ちてくるがライトはそれすらもどうでもよかった。


 そして、またルメオンがライトの顔面に向けメリケンが装着されている右手を振るおうとしたその時、ライトは取り押さえられている右手を意図も容易く振りほどくと、そのままルメオンの右手首を力強く掴んだ。


 「いてえ! やめやがれ! このクズ!」


 ライトの握力で痛みがるルメオンのその罵声が、またもやライトの逆鱗に触れた。


 ライトはルメオンの人差し指と中指の第一関節を歯で加え込むと、全力で噛みちぎろうと、歯と顎に力を込める。


 「うわあああぁ!」


 ルメオンは断末魔の叫びでもするかのように泣き喚き始めた。


 「やめろ! やめろ!」


 レイベの取り巻きたちが全力でライトを止めようと身体を掴み引き離そうとするが、ライトをルメオンから引き離すことが出来ない。


 ライトに噛まれたルメオンの指からは大量の血が床に落ち始めていた。


 レイベもこの状況は流石にまずい、と判断したのか、動揺した様子でその光景を凝視していた。


 実はライトもカナリアと同じく鬱病だった。躁状態の傾向もあり、自律神経失調症と医師に言われた。ライトは一定のストレスや怒りを溜めると自分でも制御できない程感情的になる。


 だが、気分が高揚したり、開放的になった事は一度ない。


 常に悪い方向へと偏るのだ。

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