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6章 急変と、ようやくの出会い 2話

 すると、ワグナはこれ以上、食べるように促す言い方はせず、別の話に切り替えようとする。


 「それにしても、人と言うのは上辺の事しか汲み取らないものだ。私だけでなく、ライト君に対する見解も同じ事だ。今もこうやって、見知らぬ女性のために命を懸けて戦ってきたと言うのに、(けい)(べつ)(べっ)()の目を向けるなんて批難すべき事だと言うのに」


 ワグナはライトを労うような言葉をかける。


 ライトに同情したかのように、どことなく儚い表情を見せるワグナ。


 ワグナの言葉に過去の苦しみが脳裏を過ってくるライトは、辛酸を舐めるような表情になる。


 「……いえ、僕に非がありました。父が亡くなって以来、父の暴言や母さんが(ぜい)(じゃく)な人間だ、と蔑まされた事に耐えきれなく荒れていました、僕の(もろ)さが原因なんです」


 ライトの言葉に、逆効果だった事を知ったワグナは片手で口元を隠し、どんな言葉をかけていいのか思案する。


 「それにしても、以前あった時に比べて雰囲気が変わったね。物腰が柔らかくなった。ライト君が変わるように、いずれ他の人達も君の病気を理解し認識を変えてくれるさ」


 月並みの言葉かもしれないが、何事もシンプルが一番だ、と考えたワグナは笑顔でそう言う。


 「……そう、ですね」


 そんなワグナに、ライトは気を使ったのか、あるいは本心か分からないような複雑な心境でそう答える。


 未だ俯いているライト。


 ライトの状態が改善されていない事に、ワグナは表情を曇らせてしまう。


 しかし、ワグナは諦めず会話を続けていく。


 「それとだライト君。無断で君の診察結果や素行などの個人情報を政府機関に話してしまった。政令で守秘義務が適応されなかったとはいえ、本当に申し訳ない」


 ワグナはテーブルに手を付けながら深々と頭を下げる。


 「――い、いえ、先生に他意はありません。政府に従事するとなると、必要な情報提供だと分かっていますから。だから、顔を上げて下さい」


 ワグナの予想外の行動に顔を上げ立ち上がり動揺するライト。


 いくら医師が守秘義務を持っていると言っても、それは法の下で成り立っている制度。


 法を握る政府が、言ってくれ、とその一声だけで、守秘義務などあってないような仮初の制度になってしまうのだ。


 ボッチーマンは政府機関なため、その政府に従事するとなると、やはり、それ相応の調査が必要。


 ライトの同意がなかったとはいえ、ボッチーマンは政令を行使してでも、ライトの素行や容態をしる責務があった。


 慌てるライトの声にワグナは徐々に顔を上げていく。


 それを見て落ち着いてきたライトも安堵の息を軽く吐き席に着く。


 「ありがとう。ライト君」


 爽やかな笑みのワグナに、ライトもようやく笑えるようになってきた。


 「さあ、食べよう」


 「はい」


 ようやく食事を取るライトとワグナ。


 「それにしてもライト君の身体は凄いね。撃たれて間もないと言うのに、既に完治しているなんて」


 驚いた様子で話題を変えるワグナ。


 「僕も、どうしてこうなったかは、よくわかりません」


 ライトは壮大な都市(グランタウン)の事を口にしない方がいいと思い、敢えて受け流す事にした。


 実際、ライト自身も壮大な都市(グランタウン)について知識があるわけでもないと言う理由もある。


 「まあなんにしても五体満足なのは良い事だ。そう言えば、警察の事情聴取は停学明けの前日に行われるんだよね?」


 「はい。僕の身体と精神状態を考慮して下さり、ある程度の休養を取ってから、と言う配慮をしてもらいました」


 食事をしながらワグナが自然に聞くと、ライトも淀みなく喋る。


 本当は光を照らす(ライトイルミネイト)が事情聴取をする事になっているのだが、表向きは警察がする事となっている。


 もちろん、光を照らす(ライトイルミネイト)とは無関係のワグナにはその事実は知らされていない。


 「分かったよ。じゃあそろそろ僕は行くね。午後から来る患者さん達がそろそろ来る頃だから」


 ワグナは先に食べ終えると、笑顔でそう言う。


 「はい。何から何まで本当にありがとうございます」


 ライトは深々と頭を下げ、感謝の言葉を口にする。


 「じゃあ、お大事に」


 そして、ツナエッグサンドを包んでいたラップを片手で握りしめゴミ箱に向かい捨てると、食堂を後にしたワグナ。


 移動する時でも、周囲からは熱烈な視線や、声を押さえながら歓声する者などが居た。


 主に女性。


 まるで有名人扱いだが、次期大統領とまで言われているとなると、それは致し方ない事でもある。


 ライトも自分の担当医師が、大統領になる日が近い、と思うと、微笑ましく思い、立派な人だ、と尊敬していた。


 そうこうしている内にライトも食べ終え、クシャクシャにしたラップをゴミ箱に捨て、後ろを振り向いた瞬間だった。


 「うわぁぁー」


 「うわっ!」 


 そこで、ライトを驚かせてきたのはヒーロー教官だった。


 まるでお化けに出会ったかのような衝撃。


 顔のパーツが全て垂れ下がったかのような奇怪な表情に、声のトーンもダラーとして、低い声音で言ってきたものだから、身体が飛び跳ねるようなインパクトがあった。


 「ひ、ヒーロー! どうしてここに?」


 思わず声が裏返りそうに驚くと、周囲の目を気にし、落ち着きながら喋ろうとするライト。


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