5章 勃発の予兆 6話
タルヴォは受話器を睨みつけながら、スピーカーをオンにする。
それを目にしたレイジックは眉間に皺を寄せる。
「……いいぞ」
ぶっきらぼうな声でタルヴォは電話の主の男に合図を送る。
「初めまして。光を照らす(ライトイルミネイト)の諸君。僕は怪傑人の一人、シャルナ・ヴァースキー。この世の命運を見定めるただの傍観者でもあり、無聊な民衆の一人だ。宜しく頼むよ」
こんな張り詰めた空気の中で、ソフトな声で話してくるシャルナ。
それが気に食わないと言わんばかりに、レイジックは吐き気がしそうな面持ちで不快感を露わにしていた。
「わざわざ自己紹介をしてくれてありがとよ。ついでにお前の居場所も教えちゃくれないか? 教えてくれたら礼として殺してやる」
冷静でありながら鋭い殺意を込めて口にするレイジック。
タルヴォとラーシュはレイジックの精神状態が気になり、憂慮する面持ちでレイジックに視線を向ける。
「随分威勢が良いんだね。生憎だがその申し出は受け入れられない。代わりに血塗られた舞台の場所を教えよう。スウェーズ地区の大通りの商店街、そこで悲劇の幕が上がる」
臆せず、優雅に話すシャルナ。
まるでこの状況に愉悦しているような口ぶり。
タルヴォやラーシュも不快感を露わにしたような面持ちで奥歯を噛みしめる。
ラーシュに至っては余程気に入らなかったのか舌打ちをしていた。
「それと、武装をする事をお勧めするよ。徒手で向かえば君達の命は保証しかねない。それと現場には君達だけで向かうんだ。もし反故した場合、その場で弾丸の響が後を絶たないよ」
「チッ、今からでも遅くはねえ! そんなくだらない真似は止めて自主しろ!」
タルヴォは流暢に喋るシャルナに叱責するように説得を試みる。
「無駄だよ、おやっさん。どの道こいつら(かいけつじん)に未来はない。必ず俺が殺す」
タルヴォを物腰良く止めると、最後に殺意を込めるレイジック。
すると、シャルナは潮笑う。
「抗う武人が居るからこそ、世の中は荒廃し、錯綜し、激変する。君みたいな人材はとても価値ある骨董品だ。だから君の活躍にも期待しているよ。レイジック・ボルティクス君。では、いずれ合う日まで」
シャルナは心地良い音色のような美声で語り終えると、そこで電話は切れた。
「逆探知は⁉」
タルヴォがレイジックとラーシュに切羽詰まった顔で聞く。
「……出来るには、出来たんだけど」
ラーシュは浮かない表情でそう答える。
それを聞いたタルヴォは奥歯を噛みしめながら逆探知の結果が出たパソコンを睨みつけるレイジックに目線を向ける。
「……場所はスウェーズ地区の……大通りにある商店街付近だ」
レイジックの怒りの籠った言葉にタルヴォは驚いた。
電話の主であるシャルナが自分の居場所の変わりに、と発言した、悲劇の舞台の場所と同じ場所に居ると言う事が、腑に落ちないレイジック達。
レイジック達の正体を光を照らす(ライトイルミネイト)と言う事を知っている男が、自分の場所を逆探知される事を考慮していない訳がない。
「なあ、明らかに罠だぜ」
ラーシュは暗い面持ちでそう言う。
「ああ。俺らが警察と知っていてそのデカ(けいじ)の前で人一人を殺した。怪傑人の模倣犯と言う線は皆無と言っていいだろう。何故なら模倣犯が自分を怪傑人と名乗って人を殺害しても何のメリットもないからな。二年間も証拠を殆ど残さなかった愉快犯が今更逆探知されるようなへまはしないはずだ。間違いなく誘われてる」
冷静でありながら、怒りの矛先を空想上のまだ見ぬ怪傑人に向け語るレイジック。
「落ち着けよレイジック。ただ騒乱させたいがための愉快犯か模倣犯の線も無いわけじゃないだろ。そういうイカレタ馬鹿なんて五万と居るんだからよ」
タルヴォはレイジックを落ち着かせよう、と渋い声でありながら優しく言葉を掛ける。
「……ああ、そうだな」
肩の力が抜けたかのように納得したレイジック。
「にしてもあのシャルナって奴、なんでレイジックの名前を知っていたんだ? いくら何でも情報が洩れすぎてないか?」
納得がいかないような様子になるラーシュ。
「その件は後だ。とにかく現場には俺達で向かうしかない。ここの外の現場は俺から他部署に電話して対応してもらう。お前らは急いで武装の準備をしろ」
タルヴォは身を引き締めたかのような面持ちでレイジックとラーシュに指示をする。
「ああ」
「了解!」
レイジックとラーシュは迷わず二つ返事で答える。
そして窓際に設置されているロッカーに向かい、プロテクターを身に付けていくレイジックとラーシュ。
「ラーシュ、へますんなよ」
「さっきも言ったろ。俺は本番に強いって」
レイジックが、ふとそう言うと、ラーシュは男前の笑みを見せそう答える。すると「そうだったな」とレイジックも微笑しながらそう答える。
そこで突然、部屋の扉が何の前触れも無く開いた。
「はふぇ(あれ)? ほふひふぇんま(どうしたんですか)?」
開いた扉からは、口に菓子パンを加え頬張りながら、大量の惣菜パンを抱き抱えているミリイが呑気に現れた。
見事なまでのキョトンとした顔立ちに、レイジックとラーシュは呆れ大きなため息を吐く。
「おいミリイ、今すぐ口の中のもん飲み込んで武装の準備をしろ。怪傑人かも知れない馬鹿が現れた」
「ふふぇ(ほんとうですか)⁉」
淡々とレイジックがそう言うと、奇怪な驚き方をするミリイ。
と言うか、外の騒動に気付かないなんてある意味、奇跡としか言いようがないのかもしれない。
そして、商店街で起きた事件に向かい、多くの助けられなかった命と向き合う、今に至るのだった。
ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
5章「勃発の予兆」はここまでです。
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