5章 勃発の予兆 5話
ラーシュはまた似たような電話か、と思い辟易とした表情になる。
「タルヴォさーん。出て下さいよ。また俺あんな電話出たら逆探してそいつの所にC4身体に巻き付けて襲撃しかねませんよ」
心底やる気がないラーシュは、だらけた態度でタルヴォに頼む。
「たく」
タルヴォもめんどくさそうにしながら、仕方なく電話に出る。
「俺らいずれ左遷されるかもな」
気怠そうに言うラーシュ。
「そうなりたくなかったら、少しでも気合を入れたらどうだ。日頃からそう習慣付けて置けばいざとなった時にも対応出来る。継続は力なりって言うだろ」
気遣いながら淡々と喋るレイジック。
「俺は本番で力を発揮できる稀有なタイプなんだぜ。警察採用試験だって三日三晩で成果を出せたぐらいだからな」
親指を自分に指し、自信満々の態度で言い退けるラーシュ。
レイジックは呆れてため息しか出てこなかった。
「おいおい兄ちゃん。そう言う冗談はよそでやってくれ。それに自分が怪傑人だなんて警察の耳に入れば、虚偽告訴等罪や公務執行妨害に当たる。大体三カ月以上から十年以下の懲役、罰金も五十万を超える。十八歳未満なら話は変わるが、兄ちゃん、声からして二十は過ぎてるだろ? 今回は聞かなかった事にしてやるから、これっきりにしておきな」
呆れながらそう口にするタルヴォ。
ラーシュは模倣犯か、としょうもない電話にタルヴォ同様に呆れ、椅子に背もたれながら大きな欠伸をする。
しかし、レイジックだけが鋭い目付きでタルヴォが耳にしている受話器を睨みつける。
「最近の株式会社の社員は意外と刑罰に詳しいんだね。それとも貴方は警察なのかな?」
電話の主の声はイケボのような男。
その男は微笑しながらタルヴォをからかってきた。
「アホな事言ってんじゃねえ。もう切るぞ」
心底呆れたような口調で電話の主をあしらうタルヴォ。
「なら僕が怪傑人だと言う証拠をお見せしよう。窓から外に居る人達を見て見ると言い」
優美に語る男の声に、タルヴォは何故か無視できない案件だ、と直感がそう伝えてきた。
眉を顰めながら受話器を横に置き、タルヴォは後ろの窓に近付き、窓から外に居る人達を眺める。
至ってごく普通の日常。
ジョギングをする女性や、犬の散歩をしている中年の男性。
これといって変化は感じない風景だったが、次の瞬間。
――ドン!
どこか遠くから、発砲音が聞こえてきた瞬間にはスマートフォンで電話をしていた男性が眉間を撃たれ即死した。
「なっ!」
タルヴォは驚愕し、全身が震えだす。
いきなり起きた非現実は瞬く間に近くに居た人達にパニックを起こさせる。
けたたましい悲鳴が上がり、すぐにレイジックとラーシュも立ち上がり窓に向かい外で起きた事件を目の当たりにする。
「嘘だろ、おい」
ラーシゥは動揺し、すぐ近くに居るレイジックは怒りで身体を震わせていた。
そして、タルヴォは受話器を手にし、先程の男に剣幕を突き立てながら受話器を耳に当てる。
「おい! どういうつもりだ⁉」
「これで少しは信じてくれたかい?」
怒鳴りつけるタルヴォに対し冷静に答える男。
そこで、タルヴォは怒りに身を任せては状況を見誤るのでは、と判断し、一度気持ちを落ち着かせる。
「……お前さんが狂気な輩だって事は理解した。だがな、だからと言ってお前さんが怪傑人だと言う証拠にはならねえぞ。ま、どっちにしても務所にぶち込んでやるがな」
タルヴォは威嚇しながらそう言いうと、ラーシュとレイジックに逆探知をしろ、と指で指示を出し、ラーシュは真剣な面持ちで頷きすぐに行動に移る。
レイジックは先程射殺された男性に悔恨の意を込めた眼差しを向けると、ラーシュの後に続く。
机の大きい引き出しから逆探知の機械を取り出し、電話の主の通信を辿る。
光を照らす(ライトイルミネイト)は逆探知の際、業者がいなくても、権限と知識を持っているため、独断で行うことが出来る。
「頑固な人だ。だが今ので怪傑人ではない、と楽観視出来ないのも事実のはずだ。今のはこれから起きる事態の余興にもならない前座だ。そこで改めて貴方達の認識を変えて頂きたい」
「良いだろう。だがこれ以上お前さんの好きにはさせねえぞ。必ず捕まえてやる」
男の爽やかな声に対し、タルヴォは怒りを込めて口にする。
「では、これから起きる悲劇の第一幕の舞台の場所を教えよう。だがその前にスピーカーに切り替えてもらえるかい? 他のメンバーにも耳にしてもらいたいからね」
涼やかでありながら丁寧に話をする男。
タルヴォは違和感を感じていた。
まるで、光を照らす(ライトイルミネイト)の存在を知っているような仄めかし方をしてくるような気がする、と。




