5章 勃発の予兆 4話
「耐えていると言う事は、何か目的があるからだ」
「リーゼンキルの目的? その根拠は?」
レイジックの冷静な声に浮かない表情になるラーシュ。
「殺人だよ」
「ん⁉ 意味が分かんないすよ」
何の前置きも無くタルヴォが物騒な事を言うと、ラーシュは意表を突かれたような表情で驚く。
「これまでのリーゼンキルの奴らは殺人を犯していなかった。奴ら(リーゼンキル)が本当に世間を舐めているなら、殺人ぐらい平気でやってのけただろう。だが殺人にまで手を染め続けて行けば、少年法が改革問題になりかねない。いくら「子供の安全と将来を守る事」を第一にしている政府の連中達も重い腰を上げなきゃならなくなる」
レイジックは淡々とそう言う。
そこで、ラーシュは唇を尖らせ、脳裏で思考する。
「リーゼンキルの連中は、本当は人を殺したくても改革問題の懸念があって出来ず、それ以外の犯罪で我慢してるって言いたいのか? そんなふざけた話あるか?」
ラーシュは機嫌が悪そうにそう言う。
「そんな単純な話じゃないと思うぜ。さっきもレイジックが言ったろ。耐えると言う事は目的があるからだ、と。本当に連中が殺人をしたくても我慢してるなら、それは不可能だ。既に犯罪者としてレッテルが貼られている奴らが今更そんな我慢が出来る訳が無い」
タルヴォも業務をこなしながら淀みなく喋る。
「そう……ですよね。じゃあ奴らは殺人以外の軽犯罪で裏の部分を直隠しにしているって事ですか? でも本当に隠したいなら犯罪事態に関与しなきゃいいと思いますけどね」
ラーシュは納得したのかしていないのか、微妙な面持ちをしていた。
「ギャングならではの理屈なのか。あるいは子供ならではの理屈なのか。そこらへんはいまいち見当が掴めないな」
タルヴォが神妙な面持ちで素直な感想を言う。
「どちらにしても、これ以上被害が多発する前に、リーゼンキルの連中を徹底的に一掃するべきだ」
レイジックは愚痴をこぼすかのように、不満を口にする。
「おいおい、あんまり物騒な事言うもんじゃないぞ。俺ら警察も国家公安委員会の管轄なんだ。政策に歯向かう姿勢何て見せた日には、光を照らす(ライトイルミネイト)から外されて、お前の祈願も果たせなくなる」
「……ああ、分かってる」
宥めるタルヴォの言葉にレイジックは暗い面持ちで返事をする。
光を照らす(ライトイルミネイト)が特別捜査本部と言っても、所詮は政府の犬でしかない。
現行法が機能せず、改定でもされない限り、光を照らす(ライトイルミネイト)は政府の政策に厳守しなければいけないのだ。
そして、レイジックはメンバー(ライトイルミネイト)の中でも、特に怪傑人に底知れない恨みを持っていた。
その訳とは。
「にしても、俺らにもリーゼンキルの逮捕に一役買わせてくれたっていいのによ、何で上層部の連中はここまで意固地に俺らを他部署に連携させたがらないんだろうな。意味わかんないぜ」
鬱憤でも溜まっているかのような様子のラーシュ。
しかし、それはタルヴォやレイジックも同じ思いだった。
そこで、一本の電話がかかってくる。
「はい、もしもーし」
ラーシュは気怠そうに対応する。
「――あっ⁉ ここはキャバクラじゃねえ! どこと間違えてんだてめえ!」
ラーシュはブチ切れし、受話器を叩きつけるようにして電話を切った。
「たくどうなってんだよ。なんで特別捜査本部に一般回線が繋がるんだか」
頭をヘッドレスに凭れ込み、やってられない、と言う様相のラーシュ。
「俺達が署内で水面下で動くのはむしろ怪しまれる。だから敢えて、表向きは中小企業の株式会社って事になってる。キャンディー所長の計らいだが、俺は特に不満はない」
レイジックは眉一つ動かさず、ラーシュの不満に真面目に答える。
警察署に隣接してそこで株式会社として業務すると言うカモフラージュだが、頻繁に一般回線から食事の出前やら、出張サービスの電話などが来るのだ。
「だから事務処理がお似合いだってか。たくっ、やってらんねえぜ」
完全に仕事を放棄し、後頭部に両手を付けて背もたれに凭れ込むラーシュ。
すると、また一本の電話がかかってきた。




