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5章 勃発の予兆 3話

 断ろうと思ったレイジックだったが、何故かミリイの笑顔から妙な圧力を感じてしまう。


 「あ、ああ」


 言葉を詰まらせながら、威圧感に押されたかのような声を出し、鞄から惣菜パンの入ったレジ袋を取り出し、ミリイのお弁当と交換する。


 タルヴォとラーシュは顔を(しか)めながらその様子を見守る。


 そして、またもやズカズカとした足取りで、ラーシュの所に向かうミリイ。


 「はい。私のお昼御飯」


 「えっ!」


 ミリイがニコニコしながら、先程レイジックと交換した惣菜パンをラーシュに差し出す。


 ラーシュは不意を突かれたかのような驚き方をすると恐る恐る受け取る。


 そして、ミリイは何故か部署を出るためドアの方に向かいドアノブを回す。


 「どこ行くんだよミリイちゃん⁉ 勤務中だろ」


 ラーシュは慌ててミリイを呼び止める。


 「誰かさんのせいでやる気削がれたからお昼御飯買ってくるの」


 ドアの外から身を乗り出したミリイは、舌を伸ばし、べー、とする。


 そのまま勢いよくドアを閉め、残った一同は深いため息を吐く。


 「弁当欲しいんだったら、ほんとにやるぞ」


 レイジックは気遣うようにラーシュにそう言う。


 「いいよ別に。バレたら小言が増えそうだし」


 「たくっ、一途な子供想いのおかんじゃあるまいし、そんな事ねえよ」


 不貞腐れながらラーシュはテレビを切り、レイジックは微笑しながらそう言う。


 すると、ラーシュが目を細め、何か腑に落ちない表情になる。


 「なあ、タルヴォさん。レイジックの奴、ミリイちゃん気持ち気付いてないのかね?」


 ラーシュは右から顔を乗り出し眉を(ひそ)めながら、前に居るタルヴォに小声でそう聞く。


 「まあ、仕事や()(くば)りが出来ても、鈍感な奴もいる。モテる典型みたいなもんでもあるからな。お前が気にする必要はねえよ」


 すると、タルヴォも左に顔を乗り出しながら、渋い表情で小声でそう答える。


 「ちょっと、俺だってモテるんすよ」


 ラーシュは納得がいかないような様子で、声量をギリギリに抑えながらキレ気味になる。


 そして、タルヴォとラーシュは姿勢を戻し、黙々と作業をこなしていくレイジックに目を向ける。


 それを見たラーシュは何と言っていいのか分からず、大きなため息を吐き、タルヴォは鼻で笑う。


 「そういやあ、さっきニュースでも言ってたけど、ここ最近のギャング集団で目立つ奴らって言ったらどこだと思う?」


 ラーシュがようやく仕事に取り掛かりながら、雑談のように話を振る。


 「ギャング集団が活発になってきたのは、少子化が解消されてきた二年前からだ。特に一際目立つのが十代で結成されてるリーゼンキルだろ。奴らは強盗、傷害、無銭飲食、喫煙や飲酒などの犯罪が後を絶たない。着目する点で言うなら、やはりリーゼンキルだろうな」


 タルヴォはキーボードを打ちながら、淡々と喋る。


 そこで、レイジックが気掛かりな表情を浮かばせる。


 「どしたの、レイジック?」


 レイジックの表情から何か言いたい事でもあるのか、察したラーシュは自然に聞く。


 「リーゼンキルのガキ共は何度も取絞めを受けてるってのに、懲りずに犯罪を繰り返す。少年法と言えど万能じゃない。犯罪後は保護観察で監視されているのにも関わらず犯罪を繰り返す。それが腑に落ちない」


  苦い思い出でも思い起こすかのように、表情に雲行きが増していくレイジック。


 「そんなの俺ら警察が舐められてるからじゃねえの? 十八歳未満の犯罪は最低でも懲役二カ月、最高一年未満、しかも罰金も無いときた。「子供の安全と将来を守る事」を第一とした脳内綿(わた)(あめ)で出来た政府達に過保護にされたガキ達の思考なんざ、プリン以下にたるみ切ってる。今度見掛けたら問答無用で留置所にぶち込んでやろうか」


 ラーシュは脳裏にちらついているリーゼンキルの構成員を勝手に想像してむしゃくしゃしている感じだった。


 すると、今度はタルヴォが浮かない表情になる。


 「だがよ。いくら少年法で保護されているとはいえ、いつまでもそんな横行が続かないのは奴らだって重々承知のはずだ。レッテル貼られた奴が就職活動や人間関係の中に身を乗り出しても弾かれるのは目に見えている。本気で更正しようともせず、人生を棒に振り続ける姿勢の魂胆が腑に落ちないのも事実だがな」


 タルヴォの見解に納得したのか、ラーシュは渋い表情で頷く。


 「人間の性格に裏や表があるように、その行動も同一だ。もしかしたら、リーゼンキルの奴らは表面上の犯罪で、どす黒い裏の部分を隠し続けているのかもしれない」


 レイジックは真剣に仕事に従事しながら憶測を口にする。


 この世の悪に向き合うような、(けい)(がん)の眼差し。


 「えー、そうか? ただ世間に腹いせしてる悪ガキ達に、そんな(はら)()もりなんてあるのかね」


 思わず口笛でも吹きたそうな態度で、気怠そうに話すラーシュ。


 「だがレイジックの憶測も(あなが)ち的外れとも言い切れないぜ。奴ら(リーゼンキル)を取り調べていた刑事の一人がこう言っていた。「何かに耐えてそうな目つきをしていた」てな」


 「耐えている? むしろ耐えてんのは俺ら警察と奴ら(リーゼンキル)の被害者達でしょ。世間を(ばっ)()しているあのクソガキ共が、一体何に耐えてるんだか。理解出来ねっすよ」


 タルヴォが(しか)めっ面で思いふけるように言うと、ラーシュは嫌気が差したかのような表情で呆れていた。

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