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5章 勃発の予兆 2話

 「確かに、二年前から(かい)(けつ)(じん)と持て(はや)されている者達は、非人道的に無意味とも言える罪を犯してきました。彼らが何故、有名人達を虐殺し続けているかは推論できないのが現状なのです。だからと言って、ただ危険視すればいいと言う訳ではありません」


 「何を仰いたいのです?」


 ワグナの言葉から何を言いたいのか伺えないキャスターは、首を傾げる。


 「つまり、悪だからと断定せず、その者達共、心を寄り添うべきなのです。私達はまだ彼らを理解すらしていないのに、これではどちらも一方的な私欲で滅ぼし合うだけです。我々人類は正に、光と闇を一色にするべき時を迎えているのに、それに誰も気付いていない。私はその事が解せないのです。今の子供達の教本となるにも、私達が()(じょう)に囚われてはいけないのです」


 力説するワグナに、キャスターと経済学者は自分の思想に恥じているかのように、俯いてしまう。


 「たくっ、現場も見た事もない夢想家の甘ちゃんは、言う事が違うね」


 ぼーっとした表情で嫌味を口にするラーシュ。


 それを隣で聞いて、やれやれ、とした表情になるミリイ。


 「それにしても、結局の所、(かい)(けつ)(じん)の狙いって何でしょうね? 有名人の人達を殺害し続ける事に、何の意味があるんでしょうか?」


 ミリイは、ふと何かを思い出したかのように雑談話のように言う。


 もちろん仕事は怠らない。


 「単純に考えれば、国や世界に影響を与えるためだろう。有名人は子供に夢を与える核と言ってもいい。連中(かいけつじん)は幼稚な発想で有名人を殺し続け、子供から夢や(どう)(けい)などを奪い、教本を失わせ、この世を瓦解させる腹積もりなのか。あるいは妬んでいる腹いせか。自分で言ってて馬鹿馬鹿しく思うがな」


 レイジックは熱心に仕事をしながら、自身の見解を冷静に述べる。


 「ロストヒーロー。なんつって」


 「不謹慎だよ、ラーシュ君」


 気怠そうな態度でそう言うラーシュに、不機嫌になりながらしかりつけるミリイ。


 「にしても変な話だな」


 「何がすか?」


 浮かない表情で仕事をしながら口にするタルヴォに首を傾げるラーシュ。


 「二年間も成果を上げていない俺らが、未だ解体されない理由だよ」


 タルヴォの言葉に気掛かりな表情になる一同。


 いくら、現場で証拠が見つからず、手詰まりになるのは仕方ないとはいえ、成果を上げていない部署が(そん)(ぞく)(つづ)けると言うのは不可解な点ではある。


 ましてや、光を照らす(ライトイルミネイト)は特別捜査本部として設立され、その設立資金と維持費も、もちろんタダではない。


 そこまでして存続させる理由は何なのか?


 「そんなの決まってるじゃないですか。俺らが筆記、体力、実技に優れたエリート集団だからこそ、敢えて大目に見てくれてるんじゃないんですか」


 自分に親指を向けながら、自信満々に語るラーシュ。


 それを聞いたミリイは呆れ、大きなため息を吐く。


 「だと良いんだがな」


 何か思い詰めた表情でタルヴォがそう言う。


 隣に居るレイジックも似たような表情だった。


 場が妙に気まずくなってしまう。


 「そうだ! レイジックさん。今日のお昼御飯は用意していますか?」


 その気まずい空気を晴らそうとしたのか、ミリイがパッと明るい表情になり話題を変える。


 「ああ、コンビニで買った惣菜パンだ」


 至って普通に返事をするレイジック。


 すると、ミリイが目をキラキラと輝かせる。


 「実は私、お弁当を作って来たんですよ。宜しければ食べて下さい」


 「ええー! ずりい! 俺にも弁当くれよ!」


 駄々をこねた子供みたいに会話に割って入るラーシュ。


 「嫌だ。ラーシュ君はヒーロー教官の所で(よもぎ)の天ぷらでもご馳走になってたら」


 頬を膨らませラーシュの申し出を拒否するミリイ。


 「あんな葉っぱ、いくら食べても腹なんて膨れねえよ」


 口を尖らせむくれるラーシュ。


 「そういやあ昔、ヒーロー教官が更正ルームで二人の加害者に(よもぎ)と間違えてドクゼリの有害雑草を食わせた事なんてあったけか」


 タルヴォが、ふと思い出したのか、天井を見上げながら呑気に語り出す。


 「ああ。強引に食わせられたって言って、泣きながら助けてくれと言いながら(おう)()していたっけか。ありゃ(けっ)(さく)だったな」


 鼻で笑いながら仕事をこなしていくレイジック。


 「タルヴォさんは奥さんが用意してくれた愛情たっぷりのお弁当ですよね」


 茶目っ気な笑みでそう聞いてくるミリイ。


 「マンネリ化した熟練夫婦に、そんな愛情の(こも)った弁当なんてねえよ」


 笑みを浮かばせながら自然に答えるタルヴォ。


 「おい、ミリイ。その弁当はラーシュにやってくれ。俺は気持ちだけで十分だ」


 そこで、レイジックは(よど)みなく喋り、ラーシュを気遣う。


 その言葉を聞いたミリイは背後にメラメラとした炎を引き起こすかのように野獣が威嚇するような目つきでラーシュを睨む。


 その表情を見たラーシュは地雷を踏んでしまったかのような気持ちで、ゴクリと生唾を飲み込む。


 すると、ミリイは鞄に入れてあった赤い風呂敷に包まれたお弁当を手にすると、勢いよく椅子から立ち上がり、ズカズカとした足取りで正面に居るレイジックの所に向かう。


 「だったらレイジックさん。お弁当交換しましょう。私、どうしても今日、惣菜パンが食べたいんです」


 ニッコリとした笑みでレイジックにお弁当を差し出すミリイ。


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