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4章 開かれた劇場 13話

 功を奏したかのように、レイジック達は特殊警察車両から身を乗り出し、覆面達を撃っていく。


 戦況は一変し、レイジック達が優勢になった。


 「うわっ!」


 「ぐわっ!」


 瞬く間に射殺されていく覆面達。


 「クソが! クソが! 死にやがれ!」


 そこで、先程から執念深くライトを狙っていた覆面の者が憎しみで自信を奮い立たせるようにして発砲してくる。


 が、遠く離れた狙撃手により、敢え無く射殺された。


 そして、形勢が変わってから、一分足らずで鎮圧する事が出来たレイジック達。


 救急車がライト達の前で止まると、すぐにレスキュー隊の三名が、カートを引いて駆けつけてくる。


 「離れて下さい!」


 救急バックを手にしているレスキュー隊員の一人が切迫した様子でライトとヒーロー教官を引き離そうとする。


 「駄目だ! 私達がこの女性から離れれば、このプラカードの裏に仕掛けられている爆弾が爆発する! そうなればこの女性は助からん!」


 ヒーロー教官の必死な説明に、レスキュー隊員達は、青ざめ立ち止まってしまう。


 ライトが既にピクリとも動かず大量の血を身体から流している六十代の女性に逼迫した思いで目を向ける。


 すると、プラカードの隙間から所々血が付着した裏の部分を覗き見てみると、信じられない物を目にしてしまうライト。


 「ヒーロー。プラカードの裏を見て下さい」


 動揺した様子のライトを見たヒーロー教官は、プラカードに衝撃を与えないよう、ゆっくりと手を伸ばし、その裏を確認する。


 「――くそ!」


 悔しそうな表情で怒るヒーロー教官。


 「状況が変わった。今すぐこの女性を病院に運んでくれ」


 ヒーロー教官はすぐに気持ちを切り替え、六十代の女性の首にかけられているプラカードを傷に触れないよう慎重に外した。


 状況は把握できないが、レスキュー隊員は目の前の命を救う事に意識を集中させ、すぐに六十代の女性の元に寄り、語気を強めた声をかけながら容体を確認する。


 そんな中、再びプラカードの裏に取り付けられている爆弾を確認しようとしたライト。


 だが、プラカードの裏に取り付けられていた爆弾は撃ち抜かれていて、パネルに表示された数字は一ではなく、赤くFAKE(フェイク)と表示されていた。


 「……ヒーロー。これはやはり」


 生唾をゴクリと飲み込み、未だ信じられないと言う様子のライト。


 「……ああ……偽物だ」


 怒りを押し殺すような険しい表情で口にするヒーロー教官。


 だが、愕然とする事実はそれだけではなかった。


 「……駄目です」


 そのすぐ近くで、レスキュー隊員が六十代の女性の首の頸動脈を指で触れながら、悲嘆に暮れる思いで呟いた。


 その言葉から、六十代の女性の死を実感してしまったライトは、地に両膝を付け、顔を俯かせ、むせび泣いていた。


 その光景を目にしていたレイジック達は悔しさに満ちた表情で唇を噛みしめ顔を伏せる。


 ヒーロー教官も遺憾な表情だった。


 「こちら、ミリイ。応答願います」


 誰もが黙り込む中、レイジック達の無線から、先程のスナイパーの女性が悄然とした声で、無線からそう発してきた。


 「こちらタルヴォ。敵の武装隊は(せん)(めつ)した。良くやってくれたよ嬢ちゃん」


 タルヴォはスナイパーの女性。ミリイが落ち込んでいる事を察し、元気づけようとする。


 「状況はこちらからも確認しました。……すいません。私が早急に事に当たっていれば、あの女性を死なす事も……」


 スコープで現場を見ていたミリイは、無線から声を押し殺すようにむせび泣いていた。


 ミリイが泣いている姿を想像したタルヴォは、暗鬱な表情で黙り込んでしまう。


 「今は反省や感傷に浸っている暇はない。すぐに鑑識に移る。お前も現場に来い。 ……それまでには泣き止んでおけ」


 「――はい。直ちに現場に向かいます」


 レイジックが重苦しい空気を斬るかのような(しん)(らつ)な言葉に、ミリイは鼻を啜って自分を奮起させる。


 そして、無線は切れた。


 「おいレイジック。ミリイちゃんの気持ちも考えてやれよ。余程の覚悟を決めて引き金を引いたんだぞ」


 「そんな事は分かってる。だがよ……」


 ラーシュは少し嫌気が差すような口ぶりでそう言うが、それでもレイジックは眉一つ動かさず強張った表情でそう語りながら、特殊警察車両の横を回り込み、商店街付近が一望出来る場所で足を止める。


 「この死体の山の前を俺ら警察が目の当たりにしてるのに、その仲間に泣くな、何て言えないだろ。泣いてたら刑事なんて務まらない」


 レイジックの鋭い言葉を聞いたラーシュとタルヴォもレイジックの後に続き、改めて目にした現場に顔を(しか)める。


 「やれやれ。あの電話の主の狙いは掴めないが、これだけの犠牲者が出る事は奴も予想していたはずだ。人間の考える事じゃねえな」


 タルヴォは頭を掻きながら、辟易とした態度を取る。


 すると、ラーシュが一人の遺体となった覆面の者の所に足を運ぶ。


 「でもこれで、(かい)(けつ)(じん)の尻尾は掴んだな。あの電話してきた野郎は、ご丁寧に自ら(かい)(けつ)(じん)だなんて名乗ったんだ。こいつらの素性はある程度調べる手間も省けたし、死体から(かい)(けつ)(じん)に繋がる手掛かりがあるかもしれない」


 ラーシュは気持ちを切り替えるように前向きな様子で、遺体となっている者の覆面に手を伸ばす。


 「んじゃ、俺ら警察を煩わせた(かい)(けつ)(じん)の一味の面、拝ませてもらうぜ」


 威勢よくそう言うと、おもむろに覆面を剥ぎ取ったラーシュが目にしたのは。


 「――なっ! ど、どういう事だよ……」


 その遺体の顔を目にしたラーシュは驚愕し、唖然としてしまう。


 その驚き方が尋常ではない、と気付いたレイジックとタルヴォも、その覆面を剥ぎ取られた遺体の顔を確認する。


 「――ん!」


 「――なに!」


 レイジックとタルヴォも、想像していた犯人像とは百八十度も違う人物に驚愕し声を失う。


 ライトとヒーロー教官もその驚き方が気になり、犯行に及んだ犯人の顔を見に行く。


 ヒーロー教官もレイジック達と似た驚き方をするが、ライトはそれ以上に驚いていた。


 声を失う所か、呼吸すらしているか認識できていない程。


 「そ、そんな……」


 ライトの声音が酷く震えていた事に気掛かりだったヒーロー教官が「どうした?」と声をかける。


 「……僕の……同級生です」


 面を食らったかのようになるヒーロー教官。


 その頭部を撃たれたカ所から血を流していたのは、先程執念深くライトを狙っていた人物、クリア・デフファソンだった。


 そして誰もが言葉を失い、寂しげな風だけが吹く静寂となった現場。


 九十人以上の死者。


 救えなかった命。


 予期していなかった覆面達の素顔。


 全てがライト達の思う結果には到底至らなかった結末は、まだ序章でしかなかった事を、誰も知らない。


 少なくとも、この現場に居た者には……。


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