4章 開かれた劇場 11話
駆け付けた覆面の増援達も容赦なく発砲してきた。
「こっちは任せておけ」
妙にキザな笑みを浮かばせながら、ライトの背後で構えるヒーロー教官。
師匠として負けられないと言う意味合いかもしれない。
身体を脱力したような姿勢でありながら、ヒーロー教官の目には闘士が宿っていた。
そして、自身に向け放たれた弾丸に向け指を鳴らし、弾丸を異空間に転移させ、更生ルームへと送る。
そのスピードも動きもライトに比肩する。尋常ではない程に、指を鳴らし続けるヒーロー教官。
銃弾は先端から溶けるように消えていく。
ビクビクと震える六十代の女性を挟みながら、ライトとヒーロー教官は背中を預けるようにして、銃弾を掴み、片や更生ルームへと転移させ続ける。
しかし、一向に止む事のない銃撃。
何人かが撃ち終えても、すぐにジャケットの懐に隠し持っているマガジンを取り出し装填する。
その間に、玉切れしていない覆面達は撃ち続ける。
それを繰り返していく。
覆面達は、息の合った連携で、発砲を研ぎらせないように工夫をしていた。
いつまで経っても止まない発砲。
流石に、ヒーロー教官とライトの表情にも雲行きが増してきた。
肉体と言うより精神が擦り切れられるような感覚。
二分が過ぎた時、一発の弾丸を掴み取れなかったライト。
「しまっ!」
「うっ、ぐふっ」
掴み取れない事に気付いた時には、六十代の女性が首から掛けているプラカードを貫通し脇腹に当たってしまった。
六十代の女性は横倒れ、口から吐血してしまう。
激痛に耐えながら、呻き声を上げる六十代の女性。
ライトは、動揺してしまい動きが鈍り、二発の弾丸が、ライトの二の腕と、太腿に直撃してしまった。
「うっ!」
苦痛な表情で、片膝を地に付けるライト。
「タマゴ!」
ヒーロー教官は、逼迫した表情でライトの方に視線を向ける。
ライト達の体制が崩れたチャンスを見逃さなかった覆面達は、一斉に射撃した。
絶体絶命のピンチ。
すると、ヒーロー教官は、前後から撃たれる弾に向け指を鳴らし、更生ルームへと次々と送っていく。
右手や左手を左右逆に向け、リズミカルに指を鳴らしピンチを凌ぐ。
しかし、ライトはヒーロー教官の表情から疲労がある事を感じ取り、このままでは持たない、と察してしまう。
それでもライトは諦めず、六十代の女性の近くに寄り、安否を確認する。
なんとか呼吸は出来てるが、出血の量が多く、芳しくない状態だった。
苦痛と恐怖で、顔を歪ませる六十代の女性。
窮地に追い込まれたライト達。
すると、覆面達の居る方向とは別の所から、数発の銃声が鳴る。
「うっ!」
「グアッ!」
ライト達の十字路の横の道路から放たれた弾は、後ろに居た十人規模の覆面達の蟀谷に当たった。
五人射殺された覆面達。
何事か、と思い、他の覆面達は撃った方向に驚きながら目を向ける。
「まずは少数の武装集団から叩く! ヒーロー教官達の退路を作る事が最優先だ!」
白いワイシャツの上にプロテクターを着た謎の武装集団達。
その集団が乗ってきたと思われる、特殊警察車両の影から、黒い短髪の吊り目の男性がアサルトライフルで撃ちながら指示を出す。
二十代前半の強面の面持ち。常に獲物を捕らえるような獣のような鋭い目付き。
突然の出来事に慌てだす覆面達。
そこで、特殊警察車両が少しずつ前へ進んで行く。
「まずは奴らから仕留めるぞ!」
その場しのぎの策しか思いつかなかった覆面達は特殊警察車両に向け発砲を開始する。
すぐに身を特殊警察車両に隠す、二名の隊員。
数百発以上の弾が特殊警察車両に当たるが、車両はびくともせず進んで行く。
強化ガラスや、カーボンなどのボディは硬質な素材で出来ているため、ほぼ無傷だった。
少し発砲の数が減ると、透かさず二名の隊員達は特殊警察車両から少し身を乗り出し反撃に出る。
隊員達の発砲後、十人規模で増援に来た覆面達は射殺されてしまった。
すると、商店街付近に居る一人の覆面の者が、ライト達に走りながら発砲してきた。
「うおおぉー!」
危機迫る気迫。
まるで、怒りと憎しみをぶつけたいがための執念の猛攻。
その弾はライトに向かっていた。




