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4章 開かれた劇場 6話

 いつの間にか気を取り直していたブレイクダンサーの人達に向けられる活気溢れる声援を響かせながら、減成りするライト。


 そこでヒーロー教官が拍手をしてくれる幼女の元に歩み寄る。


 「どうだいお嬢ちゃん。このユーモア溢れるショーは心の芯まで伝わったかな?」


 ヒーロー教官は愉快な気持ちで幼女にそう語りかける。


 「凄く良かったわ。私も将来、ぽりあもりぃ? て言うのに気を付けるわね」


 幼女はポリアモリーの意味が分かっていなかったが、そのフィクションから直観的に伝わっていて、複数の相手との性行為には注意する事を学んだのだった。


 そんな純粋な笑みを浮かべる幼女に対し、ヒーロー教官は感極まったのか、両手を広げ、上体を少し後ろに引く。


 「ン~~グラッファ・ビーデー!」


 満面の笑みで独語である『君に栄光あれ』と幼女に感謝と激励の意味を込めて高らかと口にする。


 幼女は意味が分からず、ポカンとした表情になる。


 そこで、ヒーロー教官は、「君に栄光あれ、と言う私の独語だ。気に入ったのなら小心な人に使うと言い。きっとその者の背中を押せる」と暖かく力強い言葉で説明し夢を与えようとする。


 すると、幼女は無邪気な笑みで身体をピョンピョン跳ねらせ、甚く気に入った様子だった。 


 ライトはその様子を見て、かなり変わっている女の子だ、と心の中でぼやくのだった。


 そして、ライトがヒーロー教官の元に近付こうとした時には、幼女はブレイクダンスを見ていた両親の元に走り出していた。


 ヒーロー教官は手を振りながら笑みを浮かばせ見送った。


 「あのう、ヒーロー」


 「ん、何だ?」


 ライトは何かを言おうとしていたが、(ちゅう)(ちょ)しているような様子だった。


 ヒーロー教官はナチュラルに聞き返した。


 「あれの一体……どこがネトラレだったんです?」


 ライトは恥ずかしい気持ちを押し殺し、頭の片隅にある疑問を聞いてみた。


 「分からなかったのか? 仕方ない奴だ。いいか、あの脚本にはローシュだけがルマンサと離婚していた。だが、他の動物達との関係性までは明かしていない」


 ヒーロー教官は呆れながら途中まで説明するとライトにその後の答えを言ってみろ、と促す素振りを取る。


 そこでライトはもしや、と思った推測が脳裏を過る。


 「もしかして、あのキメラが色んな遺伝を受け継いだ鹿やミノバト達とは離婚せず既婚者としてルマンサはトンキと肉体関係を持ったと言う事ですか?」


 出来れば気付きたくなかったような渋い表所で答えを口にするライト。


 すると、ヒーロー教官は自慢気な表情をする。


 どうやら正解のようだ。


 そして、ヒーロー教官は「見てみろ」と口にし先程の幼女に指をさす。


 ライトは振り向いてみると、あの幼女が「でね、でね、何でネトラレだったかと言うとね、鹿やミノバト達と離婚せず、ルマンサはトンキと交尾してたんだよ!」


 テンションが上がりっぱなしの幼女は、両親に懇切丁寧に説明していた。


 どうやら幼女は自力でどこがネトラレなのか、その真相に気付いていたようだ。


 ライトは末恐ろしい子供だ、と引きつった表情で思っていた。


 両親は唖然とした表情で聞き終えると一変して、幼女の肩に手を添えると「家に帰ったらパパと百一匹わんちゃんを観よう。パパと一緒に童心に帰るんだ」と愛くるしく接し、目を覚まさせるプランを口にしていた。


 「あれが真っ当な反応ですよ」


 「何を言っている! あの父親は子供の成長の芽を摘もうとしてるんだ。そもそも百一匹わんちゃんにポリアモリーの要素なんてないだろ?」


 「そんなの無くて当然ですよ。子供向けなんですから」


 不満を口にするヒーロー教官にライトは常識を伝えるが、その様子は呆れていた。


 なぜここまで性に執着するのか分からないが、ライトはヒーロー教官の価値観を理解していたため、敢えて聞かない事にした。


 落ち着きを取り戻してきたヒーロー教官だったが、少し不貞腐れながら、先程、チップを入れるための帽子を取り土埃をほろう。


 一円も入っていない、と思ったライトだったが、そこから百円玉を取り出すヒーロー教官。


 百円とは言え、お金が入っていた事に驚いたライトは「やりましたね」とヒーロー教官にそう口にする。


 ヒーロー教官は誇らし気にその百円玉を見せつけるとポケットに入れた。

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