4章 開かれた劇場 5話
地べたに尻餅をつきながら、顔をくしゃくしゃにして、啜り泣く演技をするヒーロー教官。そして、トンキの位置にすぐさま移動し、息を飲み込むような恐怖に駆られたような相好でゆっくりと歩き出す。
「一歩、また一歩と近づく度に、トンキは恐怖と憂慮、その矛盾とし混濁した心境で我が子に近付いていきます。あと一歩でその伸ばした羽が、自らの遺伝で受け継いだキメラから生えたトンキの羽に触れる直前でした。『……この世の臓腑は蜜の味。この世の生物は俺っちの生き血。万物は俺っちの……俺様の糧となる――お前もだー!』何とトンキは、食と理性の狭間で、再び飢えを満たす悪に憑かれた魔獣と成り果ててしまったのです。トンキは近付いた事を後悔し、心の底から絶望したのでした」
ヒーロー教官は、両手でガッツポーズを取りながら空に向け、雄叫びを上げる。
ブレイクダンスを披露していたダンサーや、その観客の人や、道行く通行人が何事か、と思い、ヒーロー教官にギョっとした目を向ける。
その視線を感じたライトは、恥ずかしくなり、プロットの書かれた紙で、顔を隠す。
「タマゴ! ハーリアップ!」
急かしてくるヒーロー教官の声に応えるため、深呼吸をすると、再びナレーションを続けるライト。
「キメラのぞんざいな言葉と共に、トンキの首から上を、音すらも凌駕するスピードで空を切るように横切ると、トンキの頭部を一瞬で捕食したキメラ。口元から血を垂らしながら、トンキの無残な身体は地へと横倒れました」
身体を弾ませながら、不気味な笑みを浮かべ咀嚼する演技をするヒーロー教官。
観客の一人の幼女は、ピョンピョンと跳ねながら、かなり興奮していた。
「そして、後に、トンキ達の世界は名も無きキメラの腹の中へと消化されてしまう運命を向かえたのです。この物語を見た全国民に哀悼の意を込めて伝えたい。ポリアモリーは規模が測りかねない破滅を齎すと言う事を。……性行為は程々にね」
赤面するライトは自分で言ってて、破滅願望に駆られそうになる。
ヒーロー教官は、まるで一世一代のショーを披露し終えたかのように、高らかと両手を広げ満面の笑みで、喝采を迎える準備をする。
その中で幼女だけが、ハイテンションで「キャッ、キャッ」と言いながら拍手をしていた。
こうして、神経を剥ぎ取られるような、痛ましいショーは幕を閉じたのであった。




