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1章 悲惨な日常 2話

 挨拶をしてくれた女性は、悲しい背中で通り過ぎるライトに向け切ない表情を浮かばせる。


 ライトに対し挨拶をしてくれたのは、先程の女性のみ。それ以外の廊下に居る生徒達はライトに対し、白い目で見ていたり、ライトに聞こえないように「また来やがった」「来るんじゃねえよクズ」と陰口を言っていた。


 二階の教室に入ると既にライト以外の生徒が集まっていた。


 そして、ここでも生徒全員がライトに向け蔑視するような目を向ける。


 ライトにとって一番居たくない心が痛む囲いの場でもある。


 その蔑視する目を横切って行き席に向かう。


 決められた席など無く、自由に座れるのでライトは窓際の二列目の前に座る。


 本当なら後ろの席に座りたかったライトだったが、既に他の生徒達が座っていた。


 その中にはライトが会いたくない男がいた。


 ライトと同じ身長と体格、人相が悪く、頬はこけ、常に鋭い目をしていた。


 その男、レイベ・グランヴェと取り巻きと思われる男女13人がライトに向け蔑視したり中には冷笑する者などがいた。


 生徒の全員は既にノートと教科書、シャープペンなどの筆記用具を机の上に置いていた。


 授業のチャイムが鳴ったと同時に世界史の先生が教室に入ってきた。


 名前はリビアム・スウェンイ。この教師もまた、ライトにとって会いたくない人物であった。


 ライトはこれから始まる過酷な日常を予期していたのか、動悸が激しくなるのを感じると、目を塞ぎ俯き始めた。


 動悸を鎮めようと必死に静かに深呼吸をする。


 「やれやれ、この中には私の授業など眼中にない()(てい)()()が混じっているようだ」


 無愛想な表情、冷ややかな声でリビアムが罵倒する相手は教科書もノートも机の上に置かず俯いたままのライトだった。


 そして、生徒全員がライトに心の芯が凍り付くような冷たい視線を向ける。


 しかし、ライトは未だ動悸が収まらず深く俯いたままだった。


 呼吸も乱れ始め、この時のライトは視界が白くなり、周囲の声も聞こえない程、精神状態が不安定だった。


 呼吸が荒くなっていくライトに不信感を抱いた近くの生徒達は、机に置いてある物を鞄やリュックにしまい、それを抱えると教室の隅にまでそそくさと駆け出して行った。


 そんな現状を確認したリビアムは呆れたようなため息を吐くと、ライトに向かって行く。


 ドン!


 「いい加減にしろ。これ以上秩序を乱すな。それとも何か、()()ではなく害虫と君を呼称して欲しいのか?」


 リビアムはライトの机を平手で強く叩くと、授業を妨げるようなライトの態度に対し非難の言葉を浴びせる。


 「……すいません」


 その言葉でようやく我に返ったライトは身体を震わせながら怯えたような目をリビアムに向け謝罪した。


 「ふん、訳の分からん被害者面をしおって」


 リビアムは吐き捨てるような言葉をライトに残し教壇に戻る。


 「ああ、君達は元いたテーブルを離して授業を受けたまえ。すまないが他の者はもう少し壁に寄ってくれ。そこの()()と同じ空気を吸う事になってしまうが、終わるまでの辛抱だ」


 リビアムは教壇の前に戻るや否や、ライトから離れるように指示を出す。


 先程、ライトから離れていった生徒達は元いたテーブルと椅子を壁側に向け持っていく。


 他の生徒達も壁際に寄ってこれるようにスペースを空ける。


 ライトは一人ぽつんと、その場で涙を呑むようにして教科書とノート、筆記用具をゆっくりとデイパックから取り出し机の上に置いていく。


 「では始める」


 不快感を露わにした表情でリビアムは授業を始めていく。


 周囲にいる生徒達も蔑むような目でライトを(いち)(べつ)すると、リビアムが指示を出した教科書のページを開き、黒板に書かれていく文字をノートに記していく。


 沈鬱になってしまったライトも言われたページを開いていく。


 しかしライトは黒板に書かれている文字を記していくのではなく、リビアムの言葉から出る教えを、ノートに記載していく。

 

 ライトは少しでも、リビアムを視界に入れたくなかったための行動だった。

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