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4章 開かれた劇場 1話

 「十分立派な答えだ。私と違ってお前はやはり見込みがある」


 「そんな、ヒーローこそ僕に取っては本物のヒーローです」


 腑に落ちないライトはヒーロー教官に真摯に向き合う。


 「私はな、この世にアダムとイブが生まれた時点で正義と悪と言う概念が存在したと思った。もっと言うなら人を創造させ、善悪の()(みの)らせた神と言ってもいい」


 ヒーロー教官は尊い表情で空を見上げながら口にする。


 「僕なんかよりもヒーローの方が正義と悪に付いて造形が深いですよ。流石です」


 ヒーロー教官の言葉に(かん)(めい)を受けたライトは素直にそう言う。


 「どうだかな。私はお前と違って、ただ更生させれば良いと判断していた。悪は(へい)(がい)となり、正義は悪を裁くのが宿命だと思い続けていた。しかし、それは解決策にならぬ暴力の輪廻だ。互いの善悪がそれを重ね続けていたからこそ、人々は対話による(じゅん)(かつ)()(しん)(ちょ)すら掴めなくなってしまった」


 ヒーロー教官の心境を熱心に聞くライト。


 ライトは心を痛めると言う事は誰よりも理解している。だからこそ、善と悪が暴力を行使し続けるのは消去法ですらなく、ただ正当化させるための言い訳の矛なのだ、と。


 互いが歩み寄り、心を寄り添うなんて事は先住民である原始時代から既に不可能だったのかもしれない。


 「もしかしたら僕は、私利私欲のためにヒーローを目指そうとしていたのかもしれません」


 「急にどうした?」


 憂鬱な表情で自分がヒーローを目指そうとした(こう)()に疑問を持つライト。


 ヒーロー教官の話を聞いて、ライトは、自分がただの独りよがりでヒーローを目指しているのではないか、と思い始めていた。


 ヒーロー教官もライトの話題の切り替え方が理解できず、首を傾げる。


 「僕は自分の心の(もろ)さを知っています。恐怖や怒りに耐えきれず手を出した事もあります。だからこそ変われるきっかけが欲しかったんです。ただ、母さんに楽をさせる事を目標にするだけじゃ駄目だったんです。結局、僕が他人に認められたく、悪を否定する力が欲しかっただけなんです」


 まるで(ざん)()でもしているかのように、自身の不甲斐なさを口にするライト。


 ライトはその沈んだ声で続けて喋る。


 「先生の一人がこう言ってました。『英雄の行いはただの自己満足だ』と、英雄は言い換えればヒーローの象徴です。それを目指そうとしていると言う事は、僕もまた身勝手な意思で他人を助けたいと思っているんじゃないか、と」


 ライトのヒーローになりたかったきっかけは、自身の害を払う為の防衛手段と、信じる道を進むための原動力。


 それを否定している自分がいる事に気付き思わず口にしていたのだ。


 すると、ヒーロー教官は鼻で笑った。


 「まったく、何のためにお前をタマゴだと呼称していると思っている?」


 呆れた口調でそう言うヒーロー教官に呆然とするライト。


 「いいか。お前はまだヒーローとして孵化すらしてない。英雄と同列視するな。それにさっき自分で言っていただろ?」


 「え?」


 ヒーロー教官の言いたい事を察せられず、ライトは若干困惑する。


 「『相反する正義と悪があると決めつけず、この二つが交わる道を見つけるため諦めない』と」


 ヒーロー教官の実意の籠った言葉を聞いたライトは思考が停止したかのような固まった表情になる。


 本当に自分で口上したとは思えないような男気溢れる言葉。


 その言の葉に、ライトの心が揺さぶられ気持ちが高ぶる。


 「自己満足だろうが何だろうが、お前の隣には()(ふん)する私がいる。だからお前は自分の信念を貫き通せ」


 「――はい!」


 ヒーロー教官の激励に涙を流しそうな気持を堪え、お腹の底から力強く返事をするライト。


 すぐ近くに憧れであり、自分を支えてくれる最高のヒーローがいる事を改めて実感したライトだった。


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