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3章 歩み始めた光のタマゴ 11話

 ガディアは軽率な発言だった、と自分を恥じていた。


 「それから学校での彼の不祥事に付いてだが、あれは彼だけに問題があるとは思えない。学校側だけでなく周囲に居る人間達が、既に彼を悪だと断定づけている。そんな劣悪な環境の中で生きていれば気も狂うだろう」


 既にワンオンス高校とライトの近隣住民の調査をしていたボッチーマン。その調査結果を包括的に見ていたキャンディーはライトの身を案いていた。


 「彼に非があっても、問題行為の論点を誰も考慮せず、私見と、その者達と情意投合し、今の彼を追いやっている。と言う訳ですね?」


 「そうだ」


 ガディアの見識にキャンディーは落ち着いた姿勢でそう答える。


 今のライトが人々を助け、その感謝と慰労の言葉が彼の自信と勇気に繋がる糧となって欲しい、とガディアは心の中でそう考え始めていた。が、この思いはすぐに淡い願いだ、と気付くガディアだった。


 「彼をボッチーマンに採用した最大の理由は、やはりあれですか?」


 「ああ。壮大な都市(グランタウン)に選ばれた者は強大な力を得る。ヒーロー教官が選ばれたように、ライト君もまた、その恩恵を受けた。どれだけ有能な科学者や考古学者の年密な調査をした所で、あの模型(ミニチュア)の謎を究明する事は不可能だった。だからこそ、力ある者に、例の事件の助力をして貰おうと言う事だ」


 カナリアは深慮した面持ちで、淡々と語る。


 「(かい)(けつ)(じん)による有名人の連続殺人事件の真相を明かす。と言うより、(かい)(けつ)(じん)と持て(はや)されている者の(ちゅう)(りく)。これが彼をボッチーマンに採用した本当の理由ですか?」


 少し暗い面持ちになるガディア。


 組織の為とはいえ、未成年の少年に、今までの話は扇動で、そうけしかけている、と思うと後ろめたい気持ちになってしまうガディア。


 「上の命令だ。あの(かい)(けつ)(じん)は知恵を絞っただけではどうにかなる相手じゃない。今までの事件の経緯を見ても、二年間もの間に銃火器や爆弾を使用し続けられると言う事は組織の規模もかなりの物だろう。しかも唯一の証拠はバンの車に乗っていた覆面を被った何者かだけだ」


 キャンディーは引き出しからノートパソコンを取り出し、キーボードを打っていくと、前のモニターに当時の(かい)(けつ)(じん)と思われる、バンの車に乗っている覆面を被った者達の写真を映した。そこには銃を握る者まで映っている。


 「複数犯なのは確かなんですけど、どれだけの数か想定できませんものね。仮にこの国の自衛隊や警察官を上回るような人員を備えていたらと思うとゾッとしますよ」


 モニターを見ながら不安に駆られそうになるガディア。


 「だからこそ、ライト君だけでなくヒーロー教官のような人材は我々国家警察からして見れば喉から手が出るほど欲しい逸材なんだ。敵が物量で来るならこちらはそれを上回る異能で排除するまでだ」


 今までにないくらい冷徹な面持ちで冷気の籠った言葉を口にするキャンディー。


 ガディアはキャンディーから放たれるプレッシャーに思わず生唾を飲み込む。


 「と、とにかく、今のライト君の容体と我々の仕事に前向きな姿勢で取り込もうとしている事を上層部に報告してきます。これで少しはリベロ局長も安堵するでしょう」


 「頼む」


 ガディアは少し戸惑いながらもキャンディーに一礼しオフィスを後にする。


 「……そろそろ終止符を打たねばな」


 オフィスで一人残ったキャンディーがモニターに映っている交差する人々を見ながら低い声でそう呟く。


  キャンディーもまた(かい)(けつ)(じん)の犯行に終止符(ピリオド)を打ちたいと願う一人だったのかもしれない。




 一方、広場に向かいながら談笑していたライトとヒーロー教官は何やらもめている様子だった。


 「駄目ですよヒーロー。こう言うのは子供向けの方向性が良いと僕は思います」


 何やら困った様子のライト。


 「十分子供にも配慮しているだろ。性知識を深め自然界の脅威を解説(レクチャー)するのに、これ以上の物語(プロット)はない」


 ヒーロー教官は手にしていた紙を軽く叩きながら納得がいかない面持ちだった。


 どうやら、これからやるヒーロー教官のストリートパフォーマンスに付いてもめているようだ。


 「とにかく、お前は私が演技する動きに合わせてこれを読め。トンキ達の気持ちになり切り感情を込めて言うんだぞ」


 ご機嫌斜めのヒーロー教官に台本が書かれた紙を手渡されたライトはどうも前向きな思いになれないでいた。


 「そう言えば、昨日ヒーローに言われた正義と悪についての課題何ですが」


 話を切り替えたライトに膨れっ面のヒーロー教官は素の表情に戻る。


 「お前の中で答えは出たか?」


 「はい。僕は人が居るからこそ正義と悪は存在する物だと思いました。ただ同時に、このまま二つの心を隔意してはならない物だとも思いました。正義と悪を符合する答えこそが、この世を安寧に導く何かだと」


 真摯な面持ちで語るライト。


 そんなライトの言葉を真面目に聞くヒーロー教官。


 「で、お前が目指すべき道は見つかったのか?」


 「漠然とですが、僕は諦めないと言う選択をしたいです。相反する正義と悪と決めつけず、この二つが交わる道を見つけます」


 邪気の無い誠実なライトの胸の内を聞いたヒーロー教官は頬に笑みを浮かべる。

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