3章 歩み始めた光のタマゴ 8話
「では、ライト君。これからボッチーマンとして活動する詳細な内容に付いて説明しよう」
「はい、お願いします」
ガディアから受ける説明に真摯な面持ちで耳を傾けるライト。
「まずは、ボッチーマンに付いてだ。ボッチマーマンとはヒーロー活動、市民への奉仕活動と国家の事案に抵触する事で生業とした、国家特別本部の一つだ。ちなみにボッチーマンと言う名前の由来は、ヒーローは常に孤独の身だから一人、そしてマンは、ヒーローは万の悪党にも怯まない不屈の象徴の数式。それらを二つを結合しボッチーマンと言うんだ」
笑みを浮かばせながら慣れた様子で説明するガディア。
「奉仕活動は簡易的に言うと人助けや清掃活動などですよね? でも国家の事案と言うのは?」
国家の仕事だと思うと、妙な不安がライトの胸の内に粘り付く。
不安な面持ちで語るライトにガディアはライトの緊張や不安を和らげよう、と、とてもリラックスな姿勢でいた。
「奉仕活動は概ねその通りだ。国家の事案は主に犯罪者やテロリストなどの撲滅。環境問題の取り組みなどに関わる仕事だ」
「犯罪者やテロリストの撲滅⁉」
あまりにも穏やかではない事案に驚くライト。
「撲滅と言っても人ではなく、人の心に巣食う悪に対してだ。その戦闘の盤面を打開できないとあれば致し方ない時もある。それにこの手の案件は、大抵光を照らす(ライトイルミネイト)が受け持つ事になっている」
ライトに理解してもらおうと、キャンディーが真摯な面持ちで補足説明する。
しかし、これはどう考えても一高校生が関与していい事ではない。
それは重々承知しているライトだったが、民衆、いや世界の闇を払いたい、と思うライトに取っては、願っても無い機関なのかもしれない。
「その光を照らす(ライトイルミネイト)と言う機関も国家特別本部の一つ何ですか?」
「そうだ。光を照らす(ライトイルミネイト)は正式に国家資格を持った少数精鋭の対犯罪者撲滅部隊。そして、ボッチーマンはその補佐を務めるものだ」
キャンディーの説明に組織の構造を理解していくライト。
しかし、どこか安堵した気持ちにもなれば、少し寂しい気持ちにもなる。
ライトは心のどこかで前線に立ちたいと言う気持ちもあったのだろう。
だが、力があっても心が未成熟なライトのその考え方は浅慮なのかもしれない。
「僕の役職は奉仕活動などのボランティアと光を照らす(ライトイルミネイト)の補佐。言わば兼務のようなものですね」
「そうだ。だが気負いはしないでくれていい。君はまだ学生だ。乾坤一擲の時は必ず訪れるものだが、今は心を培っていく事を優先してくれ」
キャンディーの穏やかな声音に緊張した心の泉の波紋が緩やかになっていくのを感じるライト。
「分かりました。それと烏滸がましい事を承知の上で、聞かせて頂きたい事があるんですけど?」
ライトはある疑問が脳裏を過り、聞かずにはいられないような落ち着かない様子になる。
「……言ってみたまえ」
キャンディーとガディアが互いの顔を一瞥してからライトに視線を戻すと、キャンディーが落ち着いた様子で喋る。
シリアスな話になるぐらいは予想していたのだろう。
「二年前、亡くなった、ヴァン・ヴァイスの事件の捜査に光を照らす(ライトイルミネイト)は関与していたんですか? もし何か知っているのであれば、僕にもその情報を教えて欲しいんです」
ライトが気になっていたのはヴァンの事件に付いてだった。
犯罪者やテロリストの事件を捜査する光を照らす(ライトイルミネイト)からなら、報道された以外の情報が得られるのではないか、とライトは思っていた。
暗い表情で語るライトにキャンディーは瞳を閉じ少し間を置くと、ゆっくりとその瞳を開きライトに真っ直ぐな視線を向ける。
「残念だが、ボッチーマンや光を照らす(ライトイルミネイト)が設立されたのは去年の春からだ。君の父親であるヴァン・ヴァイスの死の真相は未だ蓋が閉ざされたままだ」
キャンディーは真剣な面持ちでそうライトに伝える。
「……そう、ですか」
ライトは俯きながら言葉を詰まらせながらもそう答える。
憧れであったヴァンの命に少しでも報いるため、ライトはどうしても事件の真相を知り、ヴァンの墳墓の前で報告がしたかったのだ。
落ち込むライトを見たキャンディーとガディアも同調するかのようにその表情に雲行きが増していく。
そこで、キャンディーが再びライトに対し視線を真っ直ぐ向ける。
「だが、あの有名人の連続殺人事件は早期解決を図るため、光を照らす(ライトイルミネイト)の捜査の最優先事項に該当するものだ。怪傑人と持て囃される輩を野放しには決してしない。未だ成果も出せていない我々の言葉は虚言に聞こえるかもしれないがどうか辛抱してくれ」
「――はい」
キャンディーの揺るぎない意志の言葉に励まされたライトは感化された気持ちで顔を上げ、力強く頷く。




