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3章 歩み始めた光のタマゴ 7話

 中に入ってみると、そこはバーのような空間だった。


 棚に年代物のワインやウイスキー、ジンやテキーラが並べられ、ハイカウンターが設置されている。


 その隅には、ダイニングチェアの椅子とテーブルが幾つかあった。


 上にも幾つかあるペンダントライトから()(がね)(いろ)の光がぼんやりと放たれている。スペースも中々広い。


 しかし、人の気配がまるでない事に違和感を感じるライト。


 ヒーロー教官は見知った家のように遠慮なしに、棚に置かれているお酒の所に向かって行く。


 ライトはこのまま付いて行っていいものか? と悩みながらもヒーロー教官の後に付いて行く。


 すると、ヒーロー教官は中央に置かれている裏面のワインを手にすると向きを変えるため表のラベルが貼られている方向に回転させる。


 すると。


 カチッ


 何かボタンのような物が押された音がし、独りでに、お酒が置かれている棚の一部分が片開き扉のように開いていく。


 驚くジェイルを置いて、ヒーロー教官が中に入っていくと「やあ、キャンディーちゃん。今日は昨日と比べると一段と可憐だねえ」と陽気に喋り出した。


 不安な面持ちでその中を覗いてみたライト。


 「君は相変わらずだな。昨日の今日で私の相好に変化などお気はしないよ」


 奥の方でテーブルの前で椅子に腰かける一人の女性が涼しげな表情でそう語る。


 二十代後半に見える大人の色気。身長も高く、綺麗な容姿でロングヘアーの黒髪。(ふた)()(まぶた)でまつ毛が長く、黒いスカートスーツを着ていた。


 「あのう、ヒーロー教官。今度から遅れる時は事前に連絡をください。何のためにスマホを渡したと思っているんですか」


 その女性の隣でやや肩を落としながらそう言う一人の男性。


 ブロンドの短髪で、眼鏡をかけ、黒いスーツを着て如何にも優等生のような面持ちをしていた。


 「どうにもこう言うハイテクな物には慣れてなくてな。おまけに最近支給されたばかりの物を駆使しろと言うのは難儀だろ」


 ヒーロー教官は懐からスマホを取り出し、当たり前だ、と言わんばかりの態度で語る。


 「はあ、全く。貴方と言う人は、そんなんだから童貞なんですよ」


 呆れながらそう言うと、最後の言葉はヒーロー教官に聞こえないように独り言のように呟く男性。


 「今何か言ったか?」


 聞き捨てならないと思ったヒーロー教官は男性を睨みつける。


 「いえ、別に」


 男性は素っ頓狂な顔でヒーロー教官から視線を逸らす。


 「ふん、今に見てろ。いずれ私の息子が革命を起こす。そうなれば、世界と民を独裁し、偉大なる私の(とく)(だね)から芽生えた子達がこの世を統一するだろう」


 ヒーロー教官は自慢気な表情で股間を軽く叩きながら卑猥な言葉を堂々と主張した。


 ヒーロとは思えぬ、言語道断の発言。


 一同は呆れながら溜息を吐く。


 そこで、ヒーロー教官は未だ扉の入り口で動かないライトに目を向ける。


 「お前はいつまでそこに突っ立っている? こっちに来い。エッグボーイ」


 ヒーロー教官は手招きしながらライトを急かせる。


 「ど、どうも」


 ライトは緊張しながら、中に入っていく。


 中はいくつものモニターが設置されており、その液晶の光だけで部屋を照らしている。


 まるで監視室のような空間。


 そしてライトは女性が居るテーブルの前で足を止める。


 「君がライト君だな。私はボッチーマンと光を照らす(ライトイルミネイト)の所長を務めているキャンディー・シュトレムだ。宜しく頼む」


 キャンディーは威厳のある雰囲気で淡々と話す。


 「私はキャンディー所長の秘書官である、ガディア・フロム。以後お見知りおきを、ライト君」


 ガディアは笑みを浮かべながら親し気に挨拶をしてくれた。 


 「初めまして。ライト・ヴァイスです」


 ライトは真摯な面持ちで挨拶をすると軽くお辞儀をする。


 「君の事は(あら)(かた)調べさせてもらった。水面下で君の身元を調査した事に付いては非礼を詫びさせてくれ。本当にすまない」


 キャンディーは手をテーブルの上で組みながら軽く頭を下げる。


 「いえ、国家の仕事に従事するとなると、必要な事だと十分理解していますので、キャンディーさんに一切責任はありません」


 少しテンパるライト。


 「君が聡明な青年で助かるよ」


 キャンディーはホッとした様子で微笑む。


 ライトからして見れば、自分を受け入れてくれる人間が居た、と言う事だけでも感謝の言葉しかない。


 ヴァンを失ってから二年の月日の中で、久しぶりに生を実感してきたライトだった。

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