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3章 歩み始めた光のタマゴ 4話

 正義と悪は人間がいるからこそ存在する。でも、だからと言って、人間がいるから仕方ない、と早計な答えを出しては何も解決はしない。だからこそ追及し続け人を理解していく。そうすれば誰も正義や悪と言う言葉に縛られずに済む世界になるのではないか、とライトは思ったのだった。


 時間は経ち、朝の七時。(そう)(きゅう)の中、小鳥のさえずりの声が鳴っていた。


 肩から息を切らし、神経を張り詰めたライトの拳に、寸止めで叩きつけられた水面はいつしか波紋一つ立たせなかった。


 成功した。


 ようやくものにした力の制御。


 ライトは()(へい)した表情で自分の拳を見つめていた。


 今すぐにでも、横になって爆睡したい程、精神と肉体は(こん)(ぱい)していた。


 「おい! 朝から何やってんだ⁉」


 その時だった。


 土手から、警察官が剣幕を突き立て怒鳴り散らしてきた。


 朝の七時から()(せん)(じき)(かわ)の中央に立っていたら、たしかに不審人物だと思われるのも致し方ない事だ。


 もしかしたら、自殺をしようとしていると思われていたかもしれない。


 焦ったライトは急いで(かわ)から出ようとすると、警察官もライトの挙動に不信感を持ち、ライトに向かい走ってくる。


 ここで、ライトの素性がバレたら、退学処分になる可能性が高い。


 いや、間違いなく退学になるだろう。


 ライトは急いで靴と靴下を取ると、全力で走り出した。


 走り出す衝撃音と軽い土煙だけ残し、影も形もその場で一瞬にして消えたライト。


 まだ、ハッキリと互いの顔が認識される前に離れられた。


 警察官は人が消えた事に思考が停止し、どうしたらいいか判断がつかなかった。


 この時のライトは制御の最中(さなか)、自分のスピードに目が慣れていたので、難なく、自宅のアパートにまで無事に辿り着けた。


 だが、帰宅した時には、また玄関の扉にカラースプレーでライトの悪口が書かれていた。


 ライトの心は悲しくはなっていたが、不思議と怒る気持ちにはなれなかった。


 疲れているせいか、あるいは、いつの間にか怒るのを通り越し悲しくなってしまったのか。


 ライトは悲嘆にくれながらも鍵を開け家の中に入り、カナリアのための朝食と、支度を済ませると、急いで玄関のドアを掃除する。


 昨日と何も変わらない日常。


 それに慣れる訳も無く、辛酸を舐めるような思いで黙々と掃除をしていく。


 しかし、この時のライトは気付かなかった。自分を見守っていた存在を。


 時間は過ぎ、掃除を終える頃には九時になっていた。


 またもやヒーロー教官を待たせてしまっている事に、申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら、自宅のアパートの玄関の扉に鍵を閉め出ていくライト。


 三十分は掛かる道のりだったが、ライトの高速の速力で突風を発生させながら、ものの二秒で目的地である(いばら)公園に辿り着いた。


 辺りを見回してもヒーロー教官の姿は無い。


 もしかすると、二回も遅刻した事に呆れ、先にボッチーマンと言う雑居ビルに一人で行ったのかもしれない。


 ライトは遅刻した自分に嫌気が差しながら、(いばら)公園の中に入ってみる。


 すると、(いばら)公園の中央で不審な動きをしている何者かが居た。


 背を向けながら、身体全体を使い、何やら表現しているかのような動き。


 腰を低くし、左右の手首を重ねながら、手の平と指をバタつかせ、鳥の口を動かすような表現していた。


 徐々に近づいていくと、その何者かがヒーロー教官だと言う事に気付いたライトは、おどおどした様子で声をかけてみる事にした。


 「ヒーローですか?」


 「ようやく来たかタマゴ」


 ヒーロー教官は特に怒っている様子も無く、むしろ少し間の抜けた表情をしていた。


 「遅れてしまってすいません」


 「気にするな。お前も年頃だから母さんを恋人だと錯覚してしまう事もあるだろう。そうなると、たまらないよな」


 ヒーロー教官は腰を上げると両脇をバタつかせ、満面の笑みでウキウキした様子だった。


 「えーと、その辺は区別がついていますので大丈夫です。余計な心配を掛けて申し訳ありません」


 ライトは少し困った様子で誤解を解いてもらうための説明をすると、誠意を込め頭を下げた。


 すると、ヒーロー教官は頭を下げるライトに対し、切ない目を向ける。


 「やれやれ、見てられないな。お前の周りで起きている身の回りの事は私も理解している。だからこそ素直になれ。さっきも家を出る前にドアの清掃をしていた。その理由も察しが付く」


 少し辟易とするヒーロー教官。


 ライトが先程、ドアの清掃をしていた所をヒーロー教官は見守っていたのだ。


 ヒーロー教官は、ライトに自分を頼って欲しい、と(えん)(きょく)に言う


 ライトはその言葉に重みを感じた。

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