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3章 歩み始めた光のタマゴ 1話

 静寂の夜空の下で、目にする男は紛れもない光。


 ライトはその光、ヒーロー教官を憧れの眼差しで見つめながら「ヒーロー」と小声で呟く。 


 「ヒーロー! どうか俺を、いえ、僕を導いて下さい!」


 ライトは両手を砂利に付け、頭を下げていた。


 心の内で湧き上がるのは、「この人の元で学びたい」と言う一途な思い。


 ライトはヒーロー教官が自分に対して、更生させてやりたい、と言う思いと、内面を知ろうとし、向き合おうとする姿勢に心揺さぶられていた。


 だから、この人しか居ないと直感した。自分を変え、導いてくれる存在であると。


 身勝手な思いだが、ライトは今まで頼りになる相手も、打ち解けられる第三者も居なかった。


 その膨張していた不平の気持ちが、ヒーロー教官との出会いで爆発したのだ。


 だからライトは過剰とも捉えられる想いを行動で示している。


 必死に訴えかけるライトの想いを真面目な表情で聞いていたヒーロー教官は、片手を差し伸べてきた。


 「私はお前を導く事は出来ない。そもそも他者が他者を導く資格など無いのだ。それは傲慢だ。憧れを抱く者の背中を追うか反るか、お前が決めろ」


 力強い眼差しを向けるヒーロー教官の手を強く握り、立ち上がるライトの目は輝いていた。


 「これから宜しくお願いします」


 心震わせながら歓喜の想いを口にするライト。


 すると、ヒーロ教官はライトから手を離し、数歩後退る。


 「んん~~グラッファ・ビーデー!」


 身体を少し仰け反り、両腕を広げ、奇妙な笑みを浮かべながら、語気にアクセントを付けるヒーロー教官。


 聞いた事も無い言葉にライトはキョトンとした顔をする。


 「何ですかそれは?」


 「グラッファ・ビーデー。『君に栄光あれ』と言う私の独語だ。中々イカすだろ」


 ヒーロー教官は自慢気な表情でそう語る。


 「ええ、そうですね」


 ライトは気さくな人だ、と思いながら、その独語を尊重した。


 「そう言えば僕の自己紹介をしていませんでしたね。僕は――」


 「知っている。ライト・ヴァイスだろ」


 ライトが言い終える前に、口を挟むヒーロー教官。


 「知っていたんですね。もしかしてワンオンス高校から事前に聞いていたんですか?」


 簡単に推測するライトは特に慌てる様子も無かった。


 「そうだ。まあ正確に言えば、私の上司であるキャンディーちゃんから聞いた話だ」


 「え、キャンディーちゃん?」


 随分とプリティーな名前に、首を傾げるライト。


 「それについては明日説明する。とにかくタマゴをここから出さんとな」


 「タマゴ?」


 次から次へと伝わりづらい言葉を口にするヒーロー教官。


 ライトはまた首を傾げる。


 「お前の事だ。今日生まれたてのヒーローをタマゴと言わず何て言うんだ?」


 奇妙な動きでその言葉を表現してくるヒーロー教官。


 「ヒーロー! 僕がですか⁉」


 ありえない話を聞いたライトはその場で戸惑う。


 「そうだ。私の後を付いて行きたいんだろう? ならその道はヒーロー以外あり得ない。お前もいい加減、自分の望みと向き合え」


 ヒーロー教官の嘘偽りのない言葉を聞いたライトは、戸惑う自分が消えていた事に気付いた。


 永劫に続いていた、闇の呪縛から解放されたような気持。


 ライトは力強く頷く。


 「どうやらお前を更生する必要は無さそうだな」


 安堵した表情のヒーロー教官。


 既にこの二人の間には(わだかま)りなど無く、互いに理解し、受け入れた師弟関係となっていた。


 「とにかくここから出るとするか。お前も母さんのあそこから離れ続けるのはさぞ辛いだろう」


 またもやヒーロー教官は神妙な面持ちで胸を煽り、ジェスチャーしてくる。


 「いえ、僕は大丈夫です。人並に母が心配なだけですから」


 ライトは申し訳なさそうな面持ちで、そう話す。本心を隠しながら。


 ヒーロー教官のズレた思考に慣れつつあるライトは、もう怒る気力など持ち合わせていなかった。


 「それならいいが……では戻るとするか」


 少し心配した面持ちのヒーロー教官は、気持ちを切り替え、意気揚々となる。


 そして、ヒーロー教官は笑みを浮かばせながら、ライトに向け指を鳴らす。


 すると、またもやライトの視界はグニャリと歪み、身体もその歪みに呑まれるように消えていく。

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