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2章 立ち上がれ、ヒーロー 2話

 ライトは先程と同じ様子で、手渡してくるビンのゴミ袋をぶんどるように取り上げる。


 ビンは奇妙な驚き方をすると、黙って(いばら)公園の中に入っていき、ゴミ拾いを開始する。


 それを確認したライトは、少しでもビンから離れるため、(いばら)公園付近のゴミ拾いをし始める。


 ゴミバサミなどは無く、全て手作業で拾っていくライト。


 ティッシュや破られた雑紙、煙草の吸い殻など、苛立ちながら拾っていく。


 拾ったゴミなどを、叩きつけるようにゴミ袋の中に入れていくライト。


 「進捗はどうだ。名無しの暴君」


 ビンはニヤニヤしながら、人差し指をライトに向け何度も突くように近づいてくる。


 ライトは相変わらず聞く耳を持たず、手荒い手際でゴミを拾っていく。


 それを見たビンは、口を真一文字にし、何か思案していた。


 「さてはあれだな。人が共食いする現場を目にし、それを見て精神が耐えきれなくなったお前は、食べた朝食を吐いた。だからそんな不機嫌なんだろう?」


 自慢げに推理するビン。からかっているのではなく、ビンは大真面目だった。


 しかし、ライトはそれでもビンを無視していた。


 「まったく。コミュニケーションを取ろうにもこれではな」


 ビンは俯きながら、どうしたらいいものか、と頭を悩ませていた。


 そこで何か思いついたかのように目を大きく開き、その視線をライトに向ける。


 そしてゆっくりとライトに近付いていくビン。


 「そう言えば、さっき聞きそびれた事があるんだが、……お前の母さんの母乳は白いのか? それとも黄色かったりするか?」


 まるで、誰かを本気で気にかけているかのように、真剣な面持ちで聞いてくるビン。


 ライトはその場で手にしているゴミ袋を手放すと、ゆっくりした動作で、鋭い目をビンに向ける。


 そして、ビンに近付こうと歩き始める。


 その様子は、標的を仕留める直前のアサシン。


 「待て、待て。私はただ、お前の母親が心配なだけだ。もし母乳の色が黄色かったら、あそこから出てくる尿が急性期に掛かったかのような拍子で、乳から出てくるかもしれないだろ? そんなのを飲み続けてお前がハンチントン病にでもなったと思うと心配でなあ」


 真剣な様子で(あと)退(すさ)りながら、股や胸部を煽りながらジェスチャーしてくるビン。


 何度も言うが、ビンは大真面目だ。


 しかし、最後の言葉が聞き捨てならかったライトは、胸の内で脈動する怒りのマグマを抑えきれず、ビンの頬を力強く殴った。


 殴られたビンは、少しよろけながら、更に数歩、足を引きずるように後退する。その場で俯き、脱力したような姿勢で、両腕を下げていた。


 「……ふん、やはり最近の若者は(じょ)(じょう)の仕方がなっていない。……仕方ないな」


 すると、今までの陽気だったビンの雰囲気が、俯きながら、ただならぬ気配を漂わせてくる。


 「いい加減にしやがれ! この愚劣なゲス野郎!」


 ライトは怒りに身を任せ、ビンに暴言の言葉を浴びせる、


 ライトの激動で重苦しい空気が辺りを充満したその数秒後。


 「……更生してやる」


 ビンは鋭い目になりながら上体を起こし、低い声で、ゆったりとした動作で、右の腰に垂れ下ろしていた右手を広げ左斜め上に振り払うように上げると、ライトの視界が急に歪み始めた。


 そして、息をつく間もなく、ライトの身体は歪みの中に飲み込まれるようにして跡形も無く消えた。


 突然の事に驚いた時のライトは既に見知らぬ世界に居た。


 そこは、暗い夜空に(さん)(ぜん)と散りばめられたような星々で覆われた世界。


 戸惑いながら辺りを見回してみると、地面は一面砂利が敷かれ、すぐ近くに平屋の一軒家がある。


 その周りを覆う一面に生え茂る(よもぎ)(よもぎ)(ばたけ)と砂利の間には木材の柵が打ち付けられている。


 その平屋の家の横には、一人で住むのがやっと、と思える小屋もあった。


 農場に近いイメージの光景。


 「どうだ。中々の場所だろ?」


 動揺するライトの前に、ビンが不意に陽気な表情で、音も無く姿を現す。


 「何なんだここは⁉ 今すぐ俺を元の場所に戻せ!」


 異常な事態に(しょう)(りょ)し、声を上げるライト。


 「そう慌てる。ここは私が作り上げた異空間。更生ルームとでも言っておこう」


 淡々と語るビンに、剣幕を突き立て近づくライト。


 「ここがどんな場所かなんて関係ない。今すぐ俺を戻さないと、もっと痛い目に合わせるぞ」


 ライトはビンの顔に近付きながら、鋭い目付きで威圧する。

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