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2章 立ち上がれ、ヒーロー 1話

 そして、いつしか眠りに就いたライトは朝の六時三十分に目が覚める。


 今日は朝の八時から(いばら)公園のゴミ拾い。


 目眩や立ちくらみに悩まされながらも、支度を済ませていくライト。


 その日の朝食も昨日と変わらない献立だった。


 いつも通り、ヴァンの遺影と寝ているカナリアに挨拶を済ませると、七時三十分に家を出るライト。



 昨日と変わらない朝の陽ざし、しかし、表の玄関の扉を目にした時、黄色のカラースプレーで、何か文字が書かれていた。


 『消えろ社会のゴミ』『害虫は永眠しろ』


 扉から少しはみ出た所、左上から斜め右下にかけて、書かれていたライトへの悪口。


 ライトは陰鬱な表所で、仕方なく家の中に戻り、掃除道具を取りに行く。


 このままほっとけば、アパートの管理人に怒鳴られるだけでなく、最悪の場合、損害賠償を請求されるかもしれない。なので、ライトは掃除をすると言う選択肢しかなかった。


 水を入れたバケツのふちに、ボロ雑巾を掛け、除光液を持って行く。


 掃除をしながら徐々に昨日のレイベとルメオンの顔が脳裏を過る。


 もしかしたら奴らか、とライトは憶測していると、怒りが込み上がってくるのを感じる。


 憤りを感じながら眉間に皺を寄せ、黙々と汚れを落としていくライト。


 掃除を終える頃には、八時三十分を過ぎていた。


 急いで掃除道具を片付け、玄関の外に出ると扉に鍵を閉め、(いばら)公園に向かう。


 退学になるかもしれない、と言う懸念を感じながらも、息を切らしながら歩道を道なりに走っていくライト。


 そして、九時に目的地に着くと、(いばら)公園の前に一人の中年の男性が立っていた。


 茶色い皮のジャンパー、裾からはみ出た白いシャツ。黒いバギーパンツ。くせっ毛の黒い髪。一重の目蓋、威厳があるようでどこか抜けたようにも思える相好。


 その中年の男性は不機嫌な表情で空を見ながら、つま先をトントンと地面に何度もぶつけている。


 「……もしかして、貴方が班長ですか?」


 相手がボランティアの班長ならば、待たせている事で怒らせたのか、と思ったライトは恐る恐る聞いてみた。


 「ずいぶん遅かったな。そんなにママのおっぱいから離れるのが恋しかったのか?」


 一変して怒る様子を見せなくなった中年の男性は、(ひょう)(きん)な顔でライトを()()してきた。


 先程まで申し訳ない気持ちで一杯だったライトだったが、カナリアを愚弄されたのか、と思うと、眉間に皺を寄せる。


 「……ふざけるな」


 「何だって?」


 小声で喋るライトに、耳に手を当てながら、ライトに近づいていく中年の男性。


 「ふざけるな! このクソヤロー!」


 躁状態のライトの中の別人格が現れたかのような凶変に中年の男性は、思わず後ろに数歩下がる。


 「……まさか、当たり(ビンゴ)とわな」


 中年の男性は、小声でそう言いながら、首を横に振り、言い当ててしまった自分に対し動揺していた。


 「ともかく自己紹介といこうか。私は今回のボランティアの班長を務めるビンだ。宜しく頼むぞ、恋しがりの思春期君」


 すぐに立ち直った中年の男性は反省するどころか、またもや(ひょう)(きん)な面持ちでライトを()()する。しかも握手までしようと片腕を伸ばしてきた。


 もしかしたら、これがビンの自然体なのかもしれないが、今のライトは他人の素性を知ろうとする余裕は無かった。


 ライトは獣のような鋭い目でビンを威圧しながら、その差し出された手を振り払うように叩いた。


 完全に敵意を向けるライト。


 「やれやれ、最近の若者は(きょ)(りょう)なうえ、品性の欠片も無い(じょ)(じょう)をするのか」


 叩かれた手を摩りながら、呆れるような表情をするビン。


 そして、ビンは(いばら)公園の前に置いてある、大きなゴミ袋を持ってくる。


 「とにかく時間は過ぎている。これでこの公園の中と付近のゴミ拾いをするぞ」


 ビンは先程のライトの言動など気にも留めていない様子で、二つのゴミ袋を手にしながら、両脇をバタつかせ、ウキウキとした様子だった。


 他人に敵意を向けられ、これからゴミ拾いもすると言うのに、ここまで(やく)(どう)する人間はそうは居ないだろう。

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