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1章 悲惨な日常 9話

 そしてライトは冷蔵庫の所に歩き出し、冷蔵庫を開ける。


 中にはカナリアのために用意していた朝食が手も付けられず、そのまま残っていた。


 「とにかく今すぐ晩御飯を作るから、これを先に食べて」


 少しでもカナリアに栄養を取って欲しい、と思い、ライトは先にラップをした薄切りにされているフランスパン三枚と、小皿に入れてラップをしていた小さい角切りのバター、コップ三分の一程入っている牛乳パックをリビングにあるテーブルの上に置く。そしてリビングの光を常夜灯に設定し灯りを付ける。


 電気代も節約しなければいけないので、ライトの家のアパートの夜は常に常夜灯が基本だった。

 一年近くは夜に真面な光を家で浴びる事が無くなっていた。


 「あら、あら、ライトちゃんもお料理が上手になったわね」


 「大袈裟だよ母さん。それより、ほら」


 ライトは椅子を引くと、カナリアの両肩に手を添え、椅子にまで優しく誘導する。そのカナリアの足取りもどこか覚束無い様子だった。


 カナリアを椅子に座らせると、食器棚からコップを取り出し、その中に牛乳を入れ、カナリアの前に置く。包んでいたラップも取り外しておく。そして、ライトは冷蔵庫から、もやし一袋と予め半分に切ってラップに包んでおいた、きゅうりを取り出す。


 冷蔵庫を閉め、それらを持ってキッチンに向かう。


 調理棚から、包丁とまな板、フライパン、ヘラ、オリーブオイル、みじん切りのガーリック瓶を取り出す。


 先にフライパンにコンロの火を付けると、まな板の上にラップから取り出したきゅうりを乱切りで、ひと口サイズの大きさになるように切っていく。


 手慣れた手つきで素早く切り終ると、丁度フライパンに火が通った所だった。


 フライパンの上にオリーブオイルを適量入れ、きゅうりを入れ、ヘラで混ぜながら炒めていく。


 その直後、きゅうりに含まれている水がオリーブオイルと混ざり水蒸気となって膨張し爆発した。


 ライトの手の甲や、顔にまで跳ねたが、ライトは熱がりもせず、平然と混ぜていく。


 そしてすぐに、もやしの入った袋を破ると、そのまま豪快にフライパンの中に入れる。


 炒めながら、食事をちゃんと食べてるのかな、と不安になったライトは背を向けているカナリアの方に目を向ける。


 しかしカナリアは、黙って俯いているだけで、食べている様子ではなかった。


 慌ててコンロの火を止め、カナリアの方へ駆け出すライト。


 「……母さん?」


 ライトは不安な面持ちで、カナリアの顔を覗き込みながら肩を揺らす。


 「ライトちゃんと一緒に食べたいわ。待ってるからね」


 おっとりとした優しい口調でライトに微笑むカナリア。


 「分かった。すぐ終わらせるから」


 ライトは軽く頷き、急いで調理を再開した。


 再びキッチンに戻り、コンロに火を付けると、みじん切りのガーリックを入れ、仕上げに掛かる。


 皿を取り出し盛り付けると、フォークを二本引き出しから取り、急いでテーブルの所に持っていくライト。


 「さあ、食べよう、母さん」


 「ありがとうライトちゃん。これならいつでもお婿(むこ)に行けるわね」


 「ありがとう。ほら、食べよう」


 穏やかに微笑むカナリアを見たライトは思わず照れ笑いする。


 その日の献立は、もやしときゅうりの炒め物のみだった。


 2人は「いただきます」と言うと、フォークを使い料理を少しずつ口にしていく。


 そこでライトはカナリアが未だ口にしていない薄切りのフランスパンや牛乳に目を向ける。


 「母さん。これも食べて飲まないと、身体が持たないよ?」


 不安な面持ちになるライト。


 「これはライトちゃんが食べて飲みなさい。育ち盛りなんだから、栄養取らないと」


 微笑みながら(おう)(よう)としたカナリアの言葉に、ライトは下唇を噛むと、その心は悲しさで満ちていく。

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