9月14日(水)13:30
ついに始まった文化祭一日目。午前中は当番で写真部の展示の所にいたが、特に何をするでもなく拘束時間は過ぎていった。まあ写真を展示してるだけだからね。マジですることなかったわ。それからお昼になってお腹が空いてきたので、剣道部がやってるクレープ屋に向かう。なっちゃんは夏の大会で剣道部を引退したけど、屋台の手伝いはすると言っていたので、あわよくばクレープを買うついでになっちゃんを文化祭巡りに誘おうと思ったのだ。しかし予想外といってはあれだけど、クレープ屋はめちゃめちゃ繁盛していた。なっちゃんも忙しそうである。
「はい、おまたせー。クレープ一個ね」
「ありがとう。なっちゃん、抜けられなさそう?」
「うーん、そうだね……。ごめん、しばらく無理かも」
「そっか。残念だけど仕方ないね」
クレープを口へと運んでみれば、普通に専門店で買うのと全く遜色ないおいしさだった。え、これ本当に高校生が作ってるの? めっちゃおいしいんだけど。と、びっくりしてなっちゃんへと目を向ければ、顧問の趣味の料理作りが趣味の域を超えてて……と遠い目をしながら教えてくれた。どうやら剣道より厳しいクレープ作り指導を受けたらしい。うん、お疲れ様です。
なっちゃんと別れ、クレープを食べ終えた私は、将棋部の部室に向かうことにした。今の時間なら五十嵐くんがいるはずだ。タイミングが合えば、四月一日くんとも合流できるかもしれない。もしかしたら、今まさに二人で対局中かも。四月一日くん、五十嵐くんと勝負したがってたし。なんて、軽い足取りで校舎を歩く。そうしてたどり着いた将棋部の部室に入ってみれば、思った通り四月一日くんはそこにいて、将棋の真っ最中だった。が、対戦相手の顔を見ると、それは五十嵐くんではなく全く知らない人である。え、誰だ。四月一日くん、誰と将棋指してるんだ。
「……」
「……」
近くで五十嵐くんが見守っているけれど、二人の真剣な様子に水を差すのもはばかられ、なんとなく声をかけることができない。仕方がないので私も黙って対局を見守ることにした。見てても内容わかんないけど。しかし表情から察するに、どうやら四月一日くんの方が優勢のようである。相手の男子は恐らく将棋部なんだろうけど、どうにも頭を抱えて次の一手に悩んでいる様子だ。
それからお互いに何手か指し、しばらくして。
「王手」
「くっ……負けました……。あー、くそっ。俺は五十嵐先輩どころか、この人にも勝てないのか……!」
座布団に座って将棋盤に向かっていた彼は、投了と共に体をひねって畳に手を突き、悔しそうに床をたたきだした。感情表現がストレートだな……ん? でもなんだろう、この光景。知ってる気がするな。この人のことは間違いなく知らないはずなのに。なんだっけ……えっと……は! あれだ! 前に雑談の中で出てきた! ほら、あれ。あれだよ。五十嵐くんに将棋で勝てなくて悔しがってる後輩がいて、その後輩のことを四月一日くんがを敵だとか言ってて……。
「残念だったなルークレイン。お前、俺に勝てないようじゃ、アルフィーに勝つのは夢のまた夢なんじゃないか」
「くっ……というか、ルークレインってなんなんだ……」
ルークレイン! それだ。やっぱそうだった。前にそんなこと言ってた気がする。
「……あんた、確か家庭部でしたよね。なのになんでそんな将棋強いんすか」
「どんな勝負であれ、魔王軍に負けるわけにはいかないからな」
「魔王軍……何かの隠語か……?」
……え? ルークレイン、魔王軍なの? いやまあ確かに、敵って言ってたけども。
隣の席の四月一日くんはどうやら将棋で魔王軍と戦っていたらしい。




