9月9日(金)12:50
「生徒会長に立候補しました」
「マジか」
「まさか本当にやるとは」
「この魔王め」
「もうちょっとあったかい言葉をください」
今日は確か、立候補の締め切り日だったはずだ。迷った末に、結局立候補することを決めたということか。これまでに1年生の立候補者がどれだけいたかは知らないけれど、少なくとも私がこの高校に入学してからは見たことがない。おそらく、レアケースであることは間違いないだろう。
「届け出の書類を出したとき、びっくりされなかった?」
「されましたね。え、本当に出るの、みたいな」
「あ、やっぱりそうなんだ」
「でもそういう態度、よくないですよね。学年問わず。我こそはと思う者は立候補を。って、募集要項には書いてたんですよ? 後期に3年生が立候補できないのは暗黙の了解でも仕方がないですけど、まさか1年生が出ないのも暗黙の了解だとか言わないですよね」
「単に今まで出たがる人がいなかっただけで、ダメってことはないと思うけど」
「出たがる人がいなかったっていうか、そもそも生徒会が、1年生が立候補できないような空気を作ってる気がします。出たいけど出られなかった人、これまでもいたんじゃないですかね。でも僕は空気とか読まないので」
「確かに読まなそう」
「読んだ上で読まないっていう、高等なやつだな」
「さすが魔王」
そもそも立候補できないような空気を作っている、か。それは一理あるかもしれない。普通1年生は生徒会長に立候補したりしないよねって、思っているところが全くないといえば嘘になる。無意識とはいえ、私たち高学年のこういう、根拠のない普通が、下の子たちの弊害となってしまっているのだろうか。そしてこの弊害となった普通が受け継がれていくという悪循環。これはもしかすると、思っている以上によろしくない状態なのかもしれない。
「多分、1年生というだけで不利だし、僕が生徒会長になるのは難しいかもしれません。でも、立候補するだけでも大きな意味があると考えます。例え選挙で負けたとしても、このたった一度の前例が、いずれ入学してくる後輩たちの支えになると思うので」
「二ノ宮くん……かっこいい……」
「俺、不覚にも感動したわ。頑張れよ、二ノ宮」
「だから魔王のカリスマ性は脅威だとあれほど……」
隣の席の四月一日くんはどうやら二ノ宮くんを応援したくないらしい。




