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8月13日(土)18:00

『夏祭りいくよ』

『……え?』




 高校の夏期特別講座が終わってから早一週間。あれから一度も学校に行くことなく、特に誰かとどこかへでかけるでもなく。あ、いや。オープンキャンパスは一応行ったか。でも、最初こそ四月一日くんと五十嵐くんと三人で集まったけど、その後は結局それぞれが見たいところを好きに見て回ったから、全然一緒に行ったって感じではなかったんだよね。だからあれを誰かとでかけたってカウントするのは微妙な気がする。


 まあとにかくそんなわけで、夏休みを基本的に家でだらだらと過ごしていた私の所に、なっちゃんは突然メッセージを入れてきた。




『できれば浴衣で』

『浴衣持ってない』

『えー。まあ私も持ってないけど』

『え、私にだけ浴衣を着せるつもりだったの?』

『あわよくば』




 今の完全に二人で浴衣着よーって流れかと思ったのに全然違った。お互い持ってない上に、あわよくば私にだけ着せようとしてたってどういうこと。




『まあいいや。私服で現地集合ね』

『私の予定は聞かないんだ。まあ暇だからいいけど』




 浴衣の件はさらっと流れた。高校3年生の夏休みに暇とか言ってていいのかわからないけど、まあ夏祭りくらい行ってもいいか。延々と勉強し続けるとか無理だし。










「次はクレープいこう」

「なっちゃんよく食べるね」




 約束通り私服で集合した私たちは、夏祭りの屋台をこれでもかというほどに満喫していた。やきそば、たこ焼き、わたあめ、ベビーカステラ、回転焼き……。見事に食べ物ばかりである。くじとか輪投げとかしないのかな。あっちには射的もあったよ?


 なんて考えているうちになっちゃんはさっさとクレープを買ってきてしまったので、私はありがたくそれをいただく。私も大概食べ過ぎだな。でもまあ、屋台巡りの食べ歩きは夏祭りの醍醐味だ。たまにはこういうのも悪くない。そうしてもぐもぐしながらまた新たな食べ物を求めて二人で歩いていると、前方から見覚えのありすぎる人たちがやってくるのが見えた。




「お、八木沼さんじゃん」

「……グレースも一緒か」

「なんだ、あんたたちも来てたの」

「四月一日くんと五十嵐くん……甚平、だと」




 二人はやけに夏祭りにお似合いの格好をしていた。いや、マジで似合ってる。普通にかっこいいんだけど。あ、いつも制服か体操服くらいしか見ないから珍しいだけか。




「むしろ何で八木沼さん私服なの? 俺ら格好逆じゃない? どうせ遭遇するなら浴衣の方がよかったんだけど」

「おい私もいるんだけど」

「七瀬はどっちでもいいわ」

「は?」

「その……私服、可愛い、な」

「は?」

「グレースには言ってない」




 何だか急ににぎやかになってしまった。まあ、知り合いに遭遇するのも夏祭りの醍醐味か。




「そうだフィフィー。会えてよかった。これをやろう」

「え、やけにでかい袋持ってるなーとは思ってたけど。なにそれ」

「ぬいぐるみだ」

「……すごいでかい」




 食べ物ばかり買っていた私たちに対し、男子二人は遊び系の屋台を回ってたんだろうなと思えるような荷物をいろいろ持っていた。水風船とか、お面とか、金魚とか、そういうの。そして四月一日くんはその上やけにでかい謎の袋を持っていたのだけれど、中から取りだしたのは四月一日くんの趣味とは思えない、とても可愛らしいくまのぬいぐるみだった。




「待って。なんかこれ見覚えある。射的屋の前を通ったときに見た気がする」

「四月一日すげーんだよ。こんなでかいの絶対落とせないだろって俺は思ったのに。重心がこうだからここから連続で当てればいけるとか言って、マジで落としてんの」

「普通にすごいね」

「俺、珍しく素直に感心したわ」

「剣士たるもの、これくらいはな」

「それは意味わからんけど」

「剣士には銃の腕も必要なの?」

「そういうのはどうでもいいけど、まあ四月一日にしてはセンスのいい贈り物だわ。やっちゃんに変な物でも渡そうものなら殴ろうと思ったんだけど」

「やめろ」

「えっと……ありがとう。嬉しい」

「う、うむ」




 四月一日くんからぬいぐるみを受け取ると、物凄くふわふわで抱き心地が最高だった。見た目も本当に可愛いし、ちょっと真面目に気に入ったかもしれない。まさか四月一日くんからこんな嬉しいプレゼントを貰ってしまうなんて。これは何かお礼を考えるべきか。しかし思わず受け取ってしまったけど、これマジででかいな。これ抱えて夏祭り回るの無理だな。やっぱもうしばらく四月一日くん持っててくれないかな。






 隣の席の四月一日くんはどうやら銃の腕もなかなからしい。

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