6月29日(水)13:00
四月一日くんが颯爽と教室を去ってから早30分。いまだに彼が戻ってくる気配はない。私と五十嵐くんは二人でなるべくのんびりお弁当を食べているものの、残念ながらそろそろ食べ終わりそうである。昼休みの時間は45分間あるが、果たして四月一日くんは、ちゃんとパンを買って戻ってこられるのだろうか。
「せめて五十嵐くんがパンのときに、一緒に行けばよかったよね」
「いや。あいつの引率なんて面倒な気配しかしないから、俺は今日、親が弁当を作ってくれてホッとしてる」
「なるほど」
確かに、五十嵐くんだけならぱっと行ってぱっと買ってくるだろう。それを、購買に慣れていない四月一日くんを連れていくなんてことになれば、きっとイライラしてしまうに違いない。と言いつつ面倒見のいい五十嵐くんのことなので、なんだかんだ世話を焼くんだろうとは思うけど。
「なかなかパンにたどり着けないのかな」
「あそこは列という概念がないもんな。完全なる早い者勝ちだし、どんどん前に行っていいということを知らないと、確かに永遠に後ろに押し出され続けるか」
プラスチックの箱に並べられているパンを取り、それを店員さんに渡せば会計をしてもらえる。しかし、誰かの後ろに並ぶことは無意味だ。なぜなら、パンは取った者勝ち、そして店員さんに差し出したもの勝ちだからである。まずは箱の前まで行って、パンを取る。そして、そのパンを店員さんに差し出す。他人を押しのけてでもパンを買ってやるという強い意思がない者には、いつまで経っても順番が回ってくることはないのである。
「四月一日くん、ルールは絶対に守りたい派だし、あの購買に放り込むのはさすがに難易度が高かったかもね」
「ま、一度身をもって経験しておけば、次はうまくやれるだろ」
きちんと並んで順番待ちをするのではなく、自ら順番を勝ち取りにいくことこそがこの購買のルールである。なんて言葉で説明しても、あの四月一日くんではピンとこないだろう。今回のことは、きっと彼にとって必要な経験なのだ。別に、実際は説明するのが面倒だからとかではない。
そんなことを考えていると、ようやく四月一日くんが席へと戻ってきた。ちなみに五十嵐くんはもう食べ終わったようである。
「……ただいま」
「おう、遅かったな」
「どうだった?」
「……よくわからない総菜パンしか買えなかった」
「……じゃがいもがゴロゴロ乗ってるね。ポテサラパン的な?」
「ポテサラって、あんまりじゃがいもがゴロゴロしてはいないと思うけどな」
パン屋の総菜パンなので、おいしいのは間違いない。実際、普通においしそうではある。ただ、謎のパンにも違いないので、おそらくこれは最後まで売れ残っていたやつなのだろう。予想通りといえば予想通りの展開だ。
「本当は狙っていたパンがあるんだが……ダメだった」
「うん。ドンマイ」
「完全なる敗北だ。戦場の情報は前もって聞いておくべきだったな」
「いや戦場は言い過ぎ……でもないか」
隣の席の四月一日くんはどうやら初の購買戦争で敗北したらしい。




