6月24日(金)16:45
四月一日くんはストーカー気質なのかもしれない。という考えが少しも過ぎらなかったといえば嘘になる。でも正直、あんまり深く考える必要はないかなとも思う。五十嵐くんだって、四月一日くんの言うことの九割はスルーしてるとか言ってたし。つまり、四月一日くんが何を言おうが気にする必要はないってことだ。きっと。……え? いや現実逃避じゃないよ? だって、ほら。少なくとも、四月一日くんが悪い人じゃないのは間違いないし。それに、四月一日くんの作るお菓子、おいしいし。……いや、胃袋を掴まれてるとかじゃなくて。
それにしても、小学生の頃から定期的に配られるこのいじめアンケートに、果たしてどれほどの意味があるのだろうか。ここからいじめの発見に繋がって何かが解決するとは、到底思えないんだけど。いや、話しをそらしたわけじゃないって。ほら、これ。百歩譲って「私はいじめを受けている」はまあ、わかるよ。学校はいじめを把握したいんだもんね。ならこの質問をするしかないよね。でも「私は人をいじめている」って。これ、はいにする人なんていないでしょ。いじめてる側はそもそも、何とも思ってないだろうし。何か思うならそもそも、いじめなんかしないって話で。
「まあ、いじめを受けたことも、誰かをいじめたことも、誰かがいじめられてるところを見たこともない私には、何も言えることなんてないわけだけど」
「ま、いじめに関わったことのない人間の方が多分、多数派なんだろうな。このクラスも平和だし」
いじめアンケートは家で書くとして、とりあえず期末考査前で部活もないからと、教室で宿題をする私たち。この高校では、帰る前に宿題を済ませるという行為はわりと普通にやっていいことだ。進学校だからかな。むしろ推奨されていると言ってもいいかもしれない。家では自分の勉強をしろってことですね。はい。ちなみに、渡り廊下にも机が置いてあって、勉強スペースが完備されている。これはちょっと意味がわからない。
「あ、でも四月一日くんは……いや、ないな。ごめん何でもない」
「? 気になることがあるなら、何でも言ってくれて構わないが」
「気になるっていうか。四月一日くんのその感じだと、何ていうか、こう。仲間はずれにされそうな雰囲気あるよなってちょっとだけ思ったんだけど」
「ああ。高校までくればさすがにないかもしれないけど、中学くらいとか、異端者として弾かれてそうな感じあるよな」
「そうそれ」
「ふむ」
「でも、四月一日くんの場合は仲間はずれとかそういう、悪質な感じじゃなくて……単に周囲から引かれるだけかって思い直した」
「ま、積極的に関わり合いたいと思えるタイプではないよな」
「……そうか?」
私も最初の自己紹介のときには、普通に引いたもんね。魔王がどうとか言ってたわけだし。でもまあ、それでも。
「それでもこうやって、思うところがありつつも、何だかんだ、五十嵐くんや私みたいなのが周囲にいるわけだし……人間関係ってわからないものだね」
「そこら辺は、俺も恵まれていると思っている。いじめとも無縁の人生だ」
「そうだね。私も無縁」
「俺も無縁……つまり、いじめアンケートなんて配られても、書くことねーよ、と」
「……」
「……」
「……」
「……宿題するか」
「……だね」
「……うむ」
隣の席の四月一日くんはどうやらいじめとは無縁の人生らしい。




