6月23日(木)12:50
恐らく私は、四月一日くんが語っていた言葉の意味のほとんどを理解できていないのだろう。しかし、冷静に思い返してみて、今になって気付いてしまったことがある。
さらっと言ってたけど。何か、また新しい名前、出てきたね。
えっと、グレースだっけ。誰だグレース。四月一日くんの1年のときのクラスメイトって話だったと思うけど。アルフィーと並べて言ってたし。ということは、そのグレースとやらも勇者アーロン一行ってことでオッケー? そして、その人も何らかの職業持ち? 残念ながらとか言ってたのもどことなく気になるけど。というか、え、待って。四月一日くん、4限が終わると同時にどこかに消えたと思ったら、めっちゃおいしそうなものを携えて戻ってきたんだけど。何それ。何なのそれ。
「いちごのミルフィーユだ。作ったものを家庭科室の冷蔵庫で冷やしておいた」
「おぉぉー」
「やけに豪華なの持ってきたな。突然どうしたんだよ」
重ねられたパイ生地の間には、スライスされたいちごとたっぷりのカスタード。そして上にももちろんいちごが乗せられており、もう見ているだけで幸せになるようなフォルムをしている。これを自分で作れるという事実が信じられない。これ、お店で買うやつじゃないの?
「昨日、あいさつ運動をしていて思い出したんだが。俺とフィフィーがこの世界で初めて出会った、記念すべきあのあいさつ運動の日が、二年前の6月24日だった。一日早いがお祝いだ」
「あー。言われてみれば、お前が八木沼さんを気にしだしたのって確かに、このくらいの時期だったかもな」
「よく覚えてるね」
「突然あちこちのクラスを覗き出すという奇行が始まったのが、期末のテスト勉強をしているような頃だったんだよ。何してんだこいつって思ってたけど、確かそれで八木沼さんを見つけたんだよな。で、話しかけたいとか言い出して……え、あいさつ運動で偶然見かけた女子を探してたってことか? 冷静に考えるとやべーな」
「俺はただ、また会いたかっただけだ。ほら。食え」
「フォークもあんのか。準備万端だな。ん……うま」
「フィフィーも」
「ありがとう……んっ、ほんっとうにおいしい。天才」
「うむ」
隣の席の四月一日くんはどうやら私と出会った日を記念日に認定したらしい。




