9月28日(水)12:40
「前に話したことを覚えているだろうか」
「覚えてねー」
「なに!?」
「ああ。四月一日くんの言葉の九割はスルーしてるんだもんね」
「九割ってなかなかですね」
五十嵐くんなりの、四月一日くんとうまく付き合っていくためのコツである。
「と、とにかく、魔王の圧倒的なカリスマ性についてはこれまで何度か話してきたと思うが」
「そういえばそんな話しもしてたね」
「魔王に心酔する者は魔族に止まらず、人間でも自ら魔王の配下へと下っていく奴らが少なからずいた」
「そんなことも言ってたね」
「とはいえ所詮は人間。魔族に混ざって戦闘に参加するのは、そう簡単なことではない。多くは非戦闘員として、魔族の苦手な頭脳労働などに回されていたはずだ」
「魔族、頭脳労働苦手なんだ」
「知能が高い魔族はごく一部だからな。しかしそんな中で唯一、たった一人だけ、頭脳も戦闘能力も両方持ち合わせていて、魔王のお眼鏡にかなう人間が現れた」
「……まさか、それって」
「そう。それがルークレインだ」
私と五十嵐くんと二ノ宮くんは、この手の話しにはもう慣れたもので、なるほどと頷く。ルークレインは魔王に心酔しており、自ら魔王軍に下った人間だったのだ。それを三谷くんと二ノ宮くんに当てはめてみれば、確かに今の状況にぴったりの説明だと言える。しかし当然、三谷くんがこんな話しを聞いてなるほどなんて思えるはずもなく。彼は怪訝そうな顔をしながら思いっきり首をかしげた。
「……あの、すみません。ちょっと何言ってるかわからないんですけど」
「うん、大丈夫。それが普通」
「はあ」
「四月一日くんの中にはね、なんか壮大な設定があるんだよ」
「壮大な設定」
「いや俺は事実を言っているだけなんだが」
「だから真面目に考えるんじゃなく、柔軟な心で受け止めて。君、頭いいんでしょ。大丈夫。君ならいける」
「えっと。よくわかりませんが、八木沼先輩にそう期待されては、応えないわけにはいきませんね」
「八木沼さんのそれは期待とは違う気がするけど」
いや三谷くんには期待してるって。いろいろ説明するのが面倒だからもういい感じに察してほしいとか、別にそういうことを思ってるわけじゃないって。
「……まあつまり、ルークレインは敵ってことだ」
「結局そこに着地するんだ」
隣の席の四月一日くんはどうやら三谷くんを敵だと思っているらしい。




