セレナの一喝
私とセレナは馬車から降り、校門の前に何かを囲むように女生徒の人だかりができている事に気づく。
「あれは…」
「まったく…鬱陶しいですわね…害悪・害虫。それとも発情した雌豚と言えばよろしいかしら?」
「セレナ…それお母上が聞いたら卒倒してしまうからやめなね…」
「安心してくださいまし。私、以前より更に外面はよくなりましてよ。そんな凡ミスしませんわ。」
セレナは扇で口元を隠し、目だけは笑っているので、近くにいた私以外先程の言葉は聞かれもしなければ、口の動きで読まれもしない。
確かに完璧ではある…
そしてセレナは扇を閉じ、私の腕に自身の腕を絡めてきた。
「さぁ早く行きましょう。あんな輪なんか私が一蹴してやりますわ」
「お手柔らかに…ね…?」
そして私達も校門へと近づいて行った。
数人、私達が近づいてきた事に気がついた者達がいた。
その女生徒達は素早く輪から抜けていった。
――そうね。そうした方が賢明よね。
私はその者達の危機察知能力を心の中で称賛した。
「さて…蹴散らしますわね」
セレナはそう呟くと、私の腕に絡めていた自身の腕を引き抜き、姿勢を正した。
まさに令嬢の鏡と言われるセレナ。
完璧なたたずまいで、目を惹かれる。
そんなセレナもまた、周りの視線を一身に浴びていた。
「ここで何をしているのです!通行止めになりましてよ!」
セレナがよく通る声で一言発した瞬間、今まで何人もの女生徒の声が響いていたその輪に沈黙がおりた。
「あなた方はこんな校門近くに止まり通行を妨げ、大声で話し、時には悲鳴をあげ…」
――パチンッ
「他人への迷惑を考えませんの?それでも教育を受けた貴族ですの??」
セレナは手に持っていた扇を反対側の掌に勢いよく叩きつけ、通行の妨げになっていた女生徒達を睨みつけた。
女生徒達はセレナの勢いに飲まれてか、顔色が悪くなった者もいれば、誰かの陰に隠れてその場から退散する者もいた。
しかしセレナはそんなに甘くない。
逃げ出そうとしていた女生徒達の名前を次々に呼び、満面の笑顔で宣告した。
「私、物覚えは良い方ですの。今度このような事がありましたら、皆々様のご両親に学園での事をお伝えしておきますわね。」
――次はないからな…ってあたりかな…。
私はセレナから一歩下がった所で様子を見ていたが、女生徒達に少し同情した。
セレナは本当に記憶力がいい。
一度見たものを忘れない。
言い換えれば彼女の不興を買えば、人生終わる可能性もある。
「ご理解いただけて?さぁ早くこの場から去りなさいな」
セレナの言葉を合図に、女生徒が一斉にその場から校舎へ移動していった。
そして女生徒の壁が全て取り除かれた時、中から二人の男子生徒が疲れ切った顔でその場に立っていた。
しかしセレナはその二人に興味がなく、私の元へ戻り、再び腕を絡めてきた。
「さぁ…私達の道を阻む雌豚共は駆除しましたわ!あそこの顔がただ良いだけの使えない人達は放っておいて行きましょう!」
セレナは私の腕を引っ張るように歩を進めた。
そう先程の輪の中心にいたのはこの国、トリス国第一王子であるクーリア・トリスと隣国からの留学生フリッツ・バードンの二人であった。