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その人形は愛を知る  作者: 小嵩名雪
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変わらぬ朝

「フィルエット様、おはようございます。」


専属メイドであるミリーナが一日の始まりを告げる。

「ミリーナ。おはよう」

「さぁ。本日から学園が始まりますから、急いで準備をしましょう」


ミリーナは本当に働き者だな~と私はまだ眠い目をこすりながら、ベットからゆっくりと立ち上がる。

基本的に寝起きが悪いほうではないのだけど、昨夜は地下室で義母に叩かれ、背中の痛みのせいで寝つきが悪かった。

「フィルエット様、本日はこちらに朝食をお持ちいたしますか?」

「いえ、食堂でとるわ…今日はあの人もいるのでしょう?」

ミリーナは昨夜私の身に何が起きていたのか既に知っている。

義母が部屋に戻り、弟が私を一通りいじくった後、ようやく私は部屋に帰る事ができる。

そして部屋に帰ると必ずミリーナが包帯や薬をもって待機しているのだから。


だからか、ミリーナは毎回朝食は別にとるように促してくる。

それもそのはず。

慣れたとはいえ、背中の傷はクッションがない食堂の椅子に腰かけるのはとても痛い。

自室の椅子にはミリーナや執事長が私の為に柔らかいクッションを揃えてくれ、少しでも痛みにより休めない…とならないように工夫してくれている。

食堂などに行かずに自室でゆっくりと食事をしたいというのが本音ではあるが、あの父がいる時は、本当に体調を崩した時以外はなるべく食堂でとるようにしている。

なぜなら欠席してしまうと義母のみならず、妹も欠席したのを理由に色々仕掛けてくる。


「あの人がいるのならば、出なくてはまた義母に打たれる可能性もあるし、あそこではひたすら胃に物を詰め込むだけだから大丈夫よ」

痛いのは別に慣れているし、今更何をされようと問題はない。

正直な所あとでどうなろうと、我が家のシェフが作った食事をゆっくり堪能したいと思う。

昔から料理長は変わらず、私と母が好んだ味を今でも私の皿に出してくれている。

なので食事の時間だけは昔に戻った感覚に陥るのだ。

だけど私自身がそう思っていても、ミリーナはそうではない。


体を傷つけて戻ると、泣きそうになりながらも治療をしてくれる。

どんなに遅い時間でもミリーナは必ず治療する為に待機していてくれるのだ。


「しかし…」

「ミリーナ…いつもありがとう。ミリーナが私の変わりに泣いたり笑ったりしてくれるから、またいつか私もそんな風に感情を表に出す事ができると信じる事ができるわ」

「フィルエット様…」


そう。現在私は感情というのが多分…ない…。

嬉しいとは何か、悲しいとは何か、かつて持っていた感情が今の私が表に出す事ができない。

表情は無表情のまま。顔の筋肉が動かない。

ただ唯一あると思うのは【執着】という感情。

我ながらなんと醜い感情が残っているのかと…気が付いた時には辟易した。


食堂に向かう為、部屋から廊下に出ると義妹も同じく食堂に向かう途中なのだろう。

ばったりと出くわしてしまった。


「あら、お姉様。まったく…朝から辛気臭い人を見てしまいましたわ…」

「どいてくださいまし。」

ミリーゼは大げさにため息をついてから、私の肩にわざとらしくぶつかり、先に食堂へと向かう。


「フィルエット様…お怪我は…?」

「このくらい平気よ。ただぶつかっただけですもの。」

心配するミリーナに声をかけ、自身も食堂に向かう事とした。

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