02 ルキニア公爵家
弟が考えていた以上に異常となりました。
これを微ヤンデレの入り口かと思いますので、苦手な方はすっ飛ばしてください。
舞踏会が終わり、部屋着に着替え終わった頃、ドアがノックされた。
先程着替えを手伝ってくれたミリーナが戻ってきたと思い、中から返事をしたのだが…
ドアの向こうにいたのは珍しい…いや初めての事だ。
そこには義母が立っていた。
義母は部屋にゆっくり入ってきて、私の目の前で止まり…そこで私の記憶は飛んだ。
私は意識を取り戻した時、何が起きているかわからなかった。
目覚めた先は地下室。
私の手は鎖につながれて、頭は酷く痛く、背中も痛かった。
頭は恐らく殴られたのだろう。
意識が戻った今でも聴覚がおかしい。
そして背中は…鬼の形相で私を何度も何度も鞭で打ちつける義母の姿が視界の端でとらえられる。
戻ってきた聴覚には呪詛のようにずっと「お前さえ生まれなければ」と何度も何度も叫ぶ義母の声。
私の背中に無数の鞭打ちの痕がつき、背中が血まみれになった頃には、義母の怒りが収まったのか、はたまた疲れたのか、鞭がしなる音が止んだ。
そして義母は去り際に私に言った。
「お前は私から大切な人を奪った。生きているだけでありがたいと思いなさい。」
義母の瞳は酷く淀んで見えた。
これが13歳の春の出来事。
義母は恐らく舞踏会や夜会、お茶会などで自身と母を比べられたときに【教育的指導】の名のもと、私に鞭を振るう。
最初の頃は痛くて泣き叫んでいた私だが、これが年単位で続き、私の涙は涸れ果てた。
そしてここからの人生は下り坂だった。
妹は成長するにつれ、とても我儘になっていった。
もちろん蝶よ花よと父と義母に育てられた為でもあるが…
私の部屋を荒らす程度で今まで済んでいたのが、やはり親子か…
ある日突然、暖炉に鉄の棒を差し込み、熱したのを私の腕に突き立てた。
「フフ。お母さまがあんたに地下室でやってること知ってるんだから。だから私もやってもいいと思わない?」
妹はそれは楽しそうに目を細めて、よく通る綺麗な声で言う。
「本当はあの灰掻き棒で広範囲でやりたかったけど、それはさすがにダメだとお母さまに言われたから…喜びなさい。あなたの為にこの小さな棒を特注したの!」
「この小さな紋章はこの家の家紋よ。それをあんた如きが体に刻めるなんて光栄に思いなさい」
この時から冬は暖炉を使い、私に熱した棒を体のどこかに押し当てるのが妹の趣味となったらしい。
しかし、私が苦悶の表情のみで声を上げないのが唯一不満なのか、機嫌がとことん悪いと最後に鉄の棒で体を数発殴ってから退出する。
冬以外の楽しみは様々だけど、ここ最近は義母と一緒に私に鞭を打ち付けるのが楽しみらしい。
弟のオルカはこの母娘の行為を知っているのか、この【教育】とやらが終わった後、必ずやってきて傷の手当てをしてくれる。
それ自体は当初はありがたかったが、私の知っている手当とはまた別だと今では思う。
手当するのに体をそこら中触り、傷を舐めては吸い、舐めては吸いを繰り返していた。
時には吸う力が強く、少しピリッとした痛みが背中に走ったが、鞭の痛みに比べたら大したことがないので私は放置した。
オルカは最後包帯を巻き終わったあと、必ず言っていく言葉がある。
「姉さんは僕の物だから…いつか母さん達を追い出さないとね…でも姉さん…社交界では男とあまり話さないでね…」
「僕が嫉妬で狂いそうだよ。もし姉さんが他の男の所に行くなら僕はきっと、姉さんだけの鳥篭を作って、姉さんを歩けなくして、姉さんの全てを僕が奪うから…」
「もし言う事を聞いてくれたら、姉さんにはある程度自由をあげるよ。僕が家督を継ぐまでの間だけど」
オルカはある意味一番危険だと思ったのを覚えている。
そしてもちろん専属メイドであるミリーナが気が付かないはずはない。
ミリーナは背中の痕をみて泣き崩れてしまったほどに傷つけてしまった。
とても優しい人。
ミリーナから父に報告が上がっているはずだが、父は干渉しないと決め込んだみたいだった。
それでもミリーナが義母達に反抗しようとしたけれど、この家で唯一の味方と思えるミリーナがいなくなるのを恐れて、私自身が止めた。
それは…ミリーナがいなくなるのは寂しい…
あまり感情が動かなくなった私でも、ミリーナがいなくなることは耐えられなかった。
恐らくミリーナがいなくなったこの家で、【私】という存在を繋ぎとめてくれてる人がいなくなる。
そうなれば私はきっともう本当の意味で壊れてしまうだろう。
そう直感した。
これがルキニア公爵家という歪な家の完成。
そして今夜も私は義母に叩かれて一日が終わった。
そして時は流れ、私は高等部の2年になった。