#—— 22 ——#
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——場所は整えてあげたから
背後から絶え間なく聞こえてくる騒がしい喧騒をBGMに、彩花の人差し指が次から次に文字を打ち込んでいく。
「それじゃあ、良い返事、期待しているから。よろしくね、皆瀬さん」
そう言って、つい五分前まで共にいた黒髪の少女はもうここにはいない。
パーキングエリアを北に五十メートルほど進んだ位置から再度それを確認したからまず間違いない。
送信ボタンに人差し指を掛け、電波を伝って送信された十文字。
三十秒もしないうちに、通知を知らせる音が鳴った。
——ナイス
プレビュー画面に映し出されたのはそれだけ。送信相手からの嬉々とした感情が伝わっている間に、彩花はさっさと次の事項を文字に変えていく。ポンっとポップな音を鳴らして追加の吹き出しが画面に浮かび上がった。
——場所は?
「もう、楽しみなのはわかるんだけどさぁ」
そうぶつくさ文句を言いながらも、彩花はもう一度送信ボタンを指先で押した。
——月曜の昼休み、そこに彼女がひとりでくるから
彩花だけじゃない。いや、彩花以上に狡猾な存在が虎視淡々と機会を伺っている。
「ハッピーエンドは、やっぱりあなたには似合わないよ」
見上げた空は、やけに赤く染まっていた。
×
——帰ったら、話あるから
優太がそんなメーセージに気づいたのは、自宅の玄関内でのことだった。
「なんだよ、不躾に……」
同級生と思いがけない再会を果たしたあと。智花と無事合流した優太は、そのあとも約三十分もの間公園内をぶらぶらさせられ、やっとの思いで彼女を自宅まで送り届けたのがつい先程のこと。
もう色々と疲労困憊で、一刻も熱い早く風呂に入りたかった。
そんな思いを抱きながら帰宅した優太を待っていていたのは、妹の舞生から送信されてきた意味深なメッセージ。
その流れで、今、優太の足は遅滞を余儀なくされてしまっている。
「あら、優太、もう帰ってたの?」
洗面所から出てきた母親が、優太の存在に気づき、洗濯籠を両手に持ったまま話しかけてきた。
「うん、今さっき」
話半分に、なんて返答するのが正解なのか考える。もちろん、LINEの話。
「いつまでもそんなところでスマホを眺めたまま突っ立てないで、お父さんと舞生が帰ってくる前に、先に風呂から入ってきなさいよ」
「わかってるよ」
空返事をすると、「本当にわかってのかしら」と呆れた母親が優太と入れ替わる形でパタパタとスリッパの渇いた音を鳴らしながらリビングの方へはけていく。
依然意識をスマホに向けたまま、優太はとりあえず言われた通りに行動することにした。
自室に入ると、ついに行動することやめ、優太はベットの縁に座り込んだ。思考を妹から送られてきたメッセージにあらためて傾ける。
——帰ったら、話あるから
「用件ぐらい、記載しとけよな……」
結局、なんて返信をすれば良いのかわからず、でも、既読をつけてしまってしまった手前、返信しないわけにもいかず、優太は「わかった」と簡素で無難な返信をしてから、スマホをベットの上に放り投げた。
収納ボックスから着替えを取り出すと、言いつけ通り、優太の足は浴室へと向かった。
普段、着用することの少ない外出用の私服を脱ぎ、洗濯機の中へと放り投げる。久しぶりに外の空気に触れて、心なしか布生地もつやつやして思えるのは気のせいだと信じたい。
浴室の扉を開くと、むわぁんと立ち込める湯気が優太を暖かく出迎えてくれた。タイルの床が濡れていない。どうやら、一番風呂らしい。
母親に感謝の念を抱きながら、使い慣れた風呂桶でお湯を掬い、さっと体を流す。
「あ〜、しみるぅ」
親父くさいセリフもそこそこに、次はシャンプーとリンスで疲弊した頭皮を労うように洗っていく。
艶と潤いが戻った髪に満足してから、今度は全身を洗う。
今日のデート? で疲れ切った憎らしくも愛らしい足の筋肉は、ほぐすようにより丹念に洗い、最後に全身に付着した泡をお湯でさっと洗い落とす。
「ふぅ〜」
四十二度くらいに設定された湯船に浸かると、思わず幸せの吐息がこぼれた。強張った全身の筋肉が弛緩していくのを感じる。
五分ほど経つと、浴室内はすっかり深閑な空気に包まれた。聞こえてくるのは、身動きするたびに揺蕩う水音と換気扇の駆動音。たまに、水蒸気が天井に生み出した水滴が滴り落ちる音が浴室に溶けるように染み渡る。
「……」
ひとりになると、どうしても思い出してしまうのは、今日の出来事の数々だった。
一度助けた後輩から申し込まれたデート。衝撃的で劇的な再会と明かされた意外な真実まで……。
正直、優太もよくわからないことだらけだった。右も左も、答えがあるのかすらわからないくらいには混乱している。湯船に浸かれば、この胸を掻き立てられるような焦燥も収まると思ったけれど、ひとりになると余計にそのことばかりが脳裏を過ぎていく始末。心身ともにさっぱりするつもりが、心の方にはどうにも逆効果みたいだった。
逃げるように、優太は浴室を出た。
バスタオルで全身の水滴を拭うと、用意していた私服に着替える。
髪をドライヤーで乾かし、洗面所でばしゃばしゃと洗顔を行う。仕上げに化粧水で肌に潤いを与えていると、玄関の方から聞き慣れた声がふたつ聞こえてきた。
母親と、もうひとつは聞き慣れた妹の声。
「お兄ちゃんは?」
「お風呂よ、もうすぐ上がってくると思うから舞生も準備してなさい。あと、一時間もしないうちにお父さんも仕事から帰ってくるから」
「わかった」
「そのあと、すぐにご飯だからね。寝ちゃったらダメよ」
「わかってるってー」
親娘の会話を片耳にしていると、一方の足音が優太のいる浴室へと向かってくる。
まずい……そう思ったときには手遅れだった。
「お兄ちゃん、いる?」
案の定、浴室の引戸を開けたのは、出かけ用のお洒落な服装をした舞生だ。
「ノックもなしに入ってくるなよ」
いくら血の通った兄妹とはいえ、デリカシーの遵守は必要だと思う。親しき中にも礼儀あり。もし、逆の立場だったら殺されていたに違いない。
けど、舞生はそんな優太の有難い忠告を面倒くさそうな顔で軽く受け流し、かと思えば自分の用件だけをさっさと告げてきた。
「さっき連絡した通り、あとで話あるから」
「さっき返信した通り、ちゃんとわかってるぞ」
「そ。ならいいけど」
仏頂面で素っ気ない返事。横目に映した顔はどうにも不機嫌顔。
「まずは風呂から入れ、風呂から。話はそれからでも遅くないだろ」
ついでに、その見るからに不機嫌ですオーラも洗い流してくれれば有り難い。
「わかってるって、だからお兄ちゃんは早く出て行って」
「って、おいっ、押すなって」
バスケ部で日々鍛えている自慢のフットワークで背後に素早く回られた優太は、追い出されるように退室を余儀なくされた。勢い余って、危うく壁に激突してしまいそうになるのは両手を衝いてなんとか回避した。
ふぅっと安堵もそこそこに、遅れてピシャリと扉が閉まる音が耳朶を震わせた。
「……これがいわゆる反抗期ってやつか」
妹の過剰なスキンシップにセンチメンタルな気持ちが芽生えてくる。兄離れも近いのかもしれない。
「いや、とっくに兄離れしてたわあの子」
昔は優太の背中を健気に追いかけていたのに、今ではこの杜撰な扱い。妹の成長を嫌なところで感じてしまった。
そうやって、人知れず優太が気を落としていると、先ほどシャットアウトされたはずの扉が再びスライドしていくのに気がついた。
見ると、約三十センチ開いたドアの隙間から、くりんとした両眼がひょっこりこちらを覗いていた。言わずものがな、その正体は舞生だ。でもなぜか疑いもの眼差し。
「……なんだよ」
思わず、問いかけてみると、
「逃げないでよね」
なぜか、忠告されてしまった。まだ何もしていないのに……。
「心外だな。だいたい、俺が誰から逃げる必要があるんだよ?」
「もち私から」
「モチワタシ? 俺はそんな奴の恨みを買った覚えはないんだが?」
「もちろん、私からって意味!」
「なるほど、今どきだな」
「こんなの常識だし。お兄ちゃんが時代から取り残されてんの」
「いわゆる、ジダオってやつか」
「それ、その言葉を使ってる時点で時代から取り残されてるって証拠だから」
「まじか」
いったい、時代は何キロメートル毎時の速度で移り変わってくのだろうか……と、ちょっと真剣に考えてみる。みるけど、議題自体に身も蓋もなさすぎて早々にギブアップ。ついでに、ちょっと頭を使ったせいで糖分が欲しくなってきた。
「質問」
授業で先生に質問するときのように真っ直ぐ右手を上げる。
「なに?」
「コンビニでアイス買ってきてもよろしいでしょうか」
「もちろん、却下」
にっこりと気持ちのいい笑顔で断られた。何言ってんのこの人……と訴えてくる瞳がイタイ。
「じゃあ、ちょっと熱さましに散歩を……」
「もうすぐ夕飯だって」
「なら、腹ごなしに散歩を……」
「お兄ちゃん」
なおも難癖をつけては外出したがる優太に、今度は打って変わって、舞生が見せたのは射抜くような視線。その目は完全に据わっていた。
「舞生ちゃん……なにその視線。お兄ちゃんちょっと怖いかも……」
それは、どこかの幼馴染を彷彿とさせる鋭利な瞳だった。だから、ほぼ無意識に尻込みしてしまった。
正直、どこで覚えてきたのか問い質したいところだったが、そんな氷柱のような視線にいつまでも晒されて続けるのは、物理的にも精神的にも良くないものがある。
だから、結局、先に折れたのは、いつも通り優太のほうだった。
「はぁ……わかったから、お兄ちゃんをそんな目で見るんじゃない。……ったく、誰だよ、うちの可愛い妹にこんなにも冷酷な瞳を覚えさせた女王様は。いるものなら、ぜひお顔を拝見してみたいね。まあどうせ、黒髪ロングの薄い胸でぇ? バカみたいに優秀かつ無駄にハイスペックな自分以外どうせバカだと思い込んでる冷酷冷淡冷徹女に決まってるだろけどな」
「……お兄ちゃん、それって誰のことを指しているのかもろわかりなんだけど」
「え? うそ?」
「その臭すぎる返事も含めて、なんだけど?」
「えっ、もしかして舞生ちゃん、エスパーか何かだったりする?」
「うざ、今のお兄ちゃん相当めんどくさいよ? ちゃんと自覚ある? 学校でいじめられていない?」
「……先生、現在進行形で一番心にダメージを受けているような気がするのは気のせいでしょうか」
「あ〜、それは気のせい気のせい。だからお兄ちゃんはさ、私がお風呂か上がってくるまで自室で待機しててね」
そう言って、舞生は今度こそ浴室の扉をピシャリと閉め、浴室の中へと消えていった。
「……いや、今の『だから』の使い方、絶対間違っているだろ……。意味わかんねーよ」
優太の放った苦言は、湯船をかける音に掻き消された。
それから、お風呂上がりの舞生が優太の自室に現れたのは三十分後のことだった。
「遅いぞ」
「これでも早く上がったほうだからね」
まだ少し水気を帯びているショートヘアの髪をタオルでごしごし拭きながら、舞生はベットの縁に腰を据える。優太は、部屋の右隅に陣取っている無駄に整理整頓された机の前の椅子に座っている。手を伸ばせばぎりぎり届かないくらいの距離。
無論、綺麗に整頓されているのは、日頃から使っていないから。学校から課せられた休日の課題もまだ手をつけれていない。
「ちゃんと髪も乾かさないと風邪引くぞ」
ただでさ布地の薄いバスケボールのロゴ入り半袖Tシャツに、スポーティーなショートパンツの下から覗く、シミひとつない引き締まった健康的な足を惜しみもなく晒しているのに……。
季節は春と言っても、まだ四月の月末。この時期でも夜間は冷え込む日も少なくない。目に毒というよりかは、兄として心配が優ってしまう。
「わかってるから、お兄ちゃんいちいちうるさい」
ただ、いくら他人が注意しても、本人にその自覚がなければ意味がない。
「俺はな、お前のことが心配で」
「その言葉がもう煩いから」
いっそ清々しいと思えるほど、優太の配慮は呆気なくシャットアウトされた。項垂れるほか、この切ない気持ちを表現できる手立てがない。兄としての威厳は、一体どこで失ってしまってきたのだろうか。
それに、なんだか今日の舞生は、いつにも増して苛ついているのも気になっている。
「……」
まあでも、考えたところで、優太には舞生の思考はわからない。思い当たる節もない……そのはずなのに、心のどこかでは引っ掛かりを覚えている自分もいる。
「……で、話ってのは?」
いつまでも気落ちしていられない。面倒ごとは早めに済ますのが優太のスタイル。好きな食べ物は最初に食べておくタイプだ。
「なにって、決まってんじゃん」
舞生の言い草は、まるで知っていて当たり前だと決め付けていた。
実際、優太にはまったく心当たりがないわけでもない。どころか、彼女の一言で、「ついに……」と思っている自分がいる。
思えば、この事態を危惧していたのは今に始まったことではない。
その証拠に、真っ直ぐこちらの目を見てくる舞生から視線を逸らしてしまった。ほぼ、無意識に。
それでも、今の優太には舞生を止める手立てがない。
それぐらい、優太の前に立つ、今日の舞生の瞳は真剣な眼差しだった。
そして、どういうシステムなのか、このご時世、嫌な予感というものは実現される確率が高い。
「もちろん、雪音さんのこと」
その名前を聞いて、残念なことに、今回も悪い予感は見事的中してしまったと優太は思った。
「目を逸らさないで、私、全部知ってんだから」
その言葉に、今この瞬間の自分の鼓動が、やけに大きく聞こえるのを優太は自覚していた。
「教えてよ、お兄ちゃん」
それでも、優太にも越えさせたくない一線というものがある。越えてきて欲しくない領域が存在している。
「昔、お兄ちゃんと雪音さんの間に何があったの?」
「なにも」
だから、口にする言葉も最初から決まっていた。
「誤魔化しても無駄だよ、さっきも言った通り、私は知ってるんだから」
「だから、何もないって」
そう言いながら、優太は自分でもわかるほどイラついてきていることを気がついた。きっと、それは妹である舞生にもそれはお見通しだ。明らかに嘘をついている人間の反応はわかりやすいものだから。
とりわけ、優太の場合、昔からそういう感情が表情に出やすい。昔、よく幼馴染からもかわれた部分。彼女と違って、ポーカーフェイスというものは性に合わない。
だから、それを誤魔化して補うために、優太は口撃に転じることにした。
「逆に聞くけど、本人ですら何もないって言い張っているこの状況で、お前がなにを知ってんだよ?」
これは揺さぶりだと、優太は確信していた。
今まで、あの冬の日の出来事を誰かに公言した覚えもない。
可能性があるとすれば、舞生と仲良くしている雪音のほう。けど、それはありえないと優太は断言できる。同じ痛みを知っている同士、皮肉なことにそれだけは理解できる。頭じゃなくて、心で。理屈じゃなくて、本能で。
そして、最後にもうひとり。それは、今日、浮上したもう一つの可能性。
優太の脳裏に過ぎるとある女子の名前。それとほぼ同じに優太は驚いた。
「桜美彩花」
舞生の口から、脳裏に過った人物の名前が飛び出してくるとは思わなかったから。
「……まさかお前、本当に……」
そこまで言いかけて、優太は咄嗟に口を紡いだ。
まだ、そうだと決まったわけじゃない。
舞生がどこの誰からその名前を引き出してきたのかわかない。ただ名前だけを知っている可能性だってある。鎌をかけにきているかもしれない。優太の反応を見て、確信するつもりなのかもしれない。
それらの思惑はどうあれ、一度、優太は気持ちを落ち着かせるために浅く息を吐く。
その後で、何事もなかったかのような態度を取り続けると、優太は決めた。
「い、いやぁ……だ、誰だよ、そいつ」
でも、さすがに無理があったのだろう。主に演技力に……。
「お兄ちゃん、私がいうのもあれなんだけど……そのきょどりかたはいくらんでもわかりやすぎるよ」
最初から犯人がわかりきっている推理小説を見るような、冷たい舞生の瞳がそれを教えてくれた。
それでも、最後まで誤魔化すと決めた以上、優太も引くわけもいかない。咳払い一つして、覚悟を入れ直す。
「ごほんごほん……。まあ、何にしても、俺は知らん、知らんぞ俺は!」
演技が下手な優太に残った選択肢は力押しくらい。強引さにすべてを賭ける。
「えー、今度はまさかの昭和のお父さんスタイル……って、私誤魔化されないからっ!」
ベットから立ち上がった舞生の軽快なツッコミが部屋中に響き渡った。と思ったら、今度はずんずん近寄ってきて、仁王立ちスタイル。なぜか咎められている気分になる。いや、現に咎められている。でも、どうにも釈然としない。
優太がそんなことを思考している間に、なおも舞生の詰問は止まらない。
「知ってんだからね、あの女が小学校のときのお兄ちゃんのクラスメイトだったことぐらい」
「……へぇ、お前はなんでも知ってんだな」
「なんでもは知らないわよ、知っていることだけ——って、言わせないでよ! それに誤魔化されないから全然意味ないから話逸らさないでよっ!」
はぁはぁぜぇぜぇ肩で息をしながら、舞生が三角の目をしたまま鬼の形相で睨みつけてくる。怖いけど恐くない。兄としてはそれが逆に可愛いまである。
話の流れも悪くない。このままの勢いで誤魔化しきれるのではないか。一瞬、そう思いはじめたときだった。
それまで溜まっていたフラストレーションを爆発させるように、舞生が大きな瞳いっぱいに涙を溜めて、吠えた。
「もう、いい加減ごまかすのはやめてよお兄ちゃんっ!」
優太の鼓膜を、舞生の甲高い声が震わせた。部屋中に響き渡り、何度か反響する。そんな舞生の感情の変化に、さすがの優太も驚きを隠せなかった。それでも、苦し紛れでも、返す言葉は最初から決めている。
「……だから、嘘なんて……それに、嘘を言っているのはお前の……」
「嘘をついているのはお兄ちゃんのほうでしょう!? だって、だって昔はあんなに仲よかったのに、今の雪音さんは全然家に来てくれないし、近寄っても来てくれない! それはお兄ちゃんがいるからでしょっ!? 今日だって私と一緒にいるの辛そうだった!」
「だからって……」
だからといって、優太が嘘をついているのかまだわからないはずなのに、舞生の口調は随分と確信を抱いているように感じ取れる。
「悪いのは全部、あの桜美って女のせいなんでしょっ!?」
「——!?」
「知ってんだよ、私。お兄ちゃんと雪音さんがあの冬の日、四年前のあのとき喧嘩別れしたってことぐらい」
「……なんで、お前がそれを……」
「そして、その元凶となったのが桜美彩花だってことも。見てたんだ、私。全部じゃないけど、涙を流して立ち去る雪音さんの姿と、教室に残ったお兄ちゃんとあの歪な笑みを浮かべたあの人のことを」
返す言葉も見つからない。まさか、舞生があの場面を目撃していたとは思わなかったから。
気づけなかった。あの時は、気づく余裕するなかったから。雪音の涙にすら気づくことさえできなかったのだから。
「ねぇ、お願い、教えてよお兄ちゃん。私にできることはないの?」
できること。妹に、できること。
「……ねぇよ、んなもん」
これは、優太と雪音の問題。幼馴染同士の諍い。そして、好きな人との蟠り。だから、兄としても、彼女を想う男としても、この問題だけは自分で解決するべきだと思う。
それに……。
「あったら、俺が聞きてぇぐらいだよ」
手際良く雪音との関係を修復できる手段があるのなら、五年間もうじうじ悩んだりしていない。
見つからない。一向に。思いあぐねている。一定に。今も。いつまでも。
「なら、私が教えてあげよっか、その方法を」
そう思っていた、はずなのに……。




