#—— 19 ——#
——私、片瀬君と付き合うことになったから
——ごめんね。でも、仕方ないでしょ? さきに私からすべてを奪ったのは、皆瀬さんのほうなんだから。それに、痛い思いを一方的にするのは不平等でしょ? だから、これでやっと平等になったんだよ
あの日、あの冬の日、寒い寒い冬空の下、それは亜麻色の髪を靡かせた彼女に言われた言葉。
——これで、平等に大切なものを失った
確かにその通りだった。
五年前のあの冬の日、皆瀬雪音な存在を失った。たったひとりの、大切で、大事な幼馴染の存在を。
いつも大切なものほど目も前にあるものだから、当たり前のようにあるものだから、今まで気づけかった。
あのとき、彼を失ったとき、皆瀬雪音ははじめてその価値の尊さを自覚した。
でも、それを認識したときには、もうすべてが手遅れだった。
それでも、雪音は知っている。
五年という長い歳月をかけてようやくわかったことがある。
それは、一度失ったものは同じ形には戻らないということ。
失ったピースは別の何かに補われ、異なった模様を描き出すことができるということ。
例えそこに、探し求めていた幼馴染の姿がなくても。
例えそこに、そんな彼と仲慎ましげにじゃれつく女の子がいたとしても。
そのすべてを差し置いてでも、立ち向かわなければならない人物がいる。
「久しぶりだね、皆瀬さん」
五年前と変わらない亜麻色の髪は、あのときよりも随分と短くなった。
「五年ぶり、だよね?」
もともと愛嬌のあった垂れ目は、あの頃よりも随分と大人っぽい魅力に溢れていた。
「私のこと、もう、わかってるよね?」
モデルのように整ったプロポーションを持つ、元クラスメイトの彼女。
「桜美彩花」
かつて、雪音から大切な存在を奪い去っていた少女が、五年という時を経て、今、雪音目の前に立っている。あのときと変わらない、ゆったりした微笑を浮かべて。
「そ。正解……と言いたいところだけど、まあ、それはお互いに言いたいことは募ってるよね」
警戒心を強める雪音の瞳を他所に、彩花は一方的にそう告げる。そして、背後に向ける意味ありげな視線。その先には肩を並べて歩く二人の男女。それだけで彩花が言わんとすることが雪音には伝わった。
「ここで話すと色々と気にちゃうだろうし、まあ、その辺も含めておいおいあっちの方で話そうよ」
そう言って、立ち竦み警戒する雪音の脇を通り抜け、彩花は公園の出口の方へと向かって歩いて行く。
本当は、今すぐにでも腹の底から溢れ出す感情をぶつけてやりたい。やりたいけど、今はそのときじゃない。彩花もそれがわかっているからこそ、この提案を持ち出してきたのだろう。
「……」
視線の先で遠ざかって行く幼馴染の背中を瞳に映し、雪音は後ろ髪を引かれる思いで彩花の背中を追った。
だから、スマホに届いたLINEの着信音には気づけなかった。




