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授業を受け始めて自分は実は天才ではないかとナディアは思っていた。
今回ナディアが入った枠は、学校に通う生徒の侍女や従者が共に勉強できる『付き添い生徒』という枠だった。
その為、受けることができる授業はお嬢様が選択した授業のみ。かなり頭の良いお嬢様が選択する授業はどれもレベルが高く、受けている生徒の数も少なかった。
案外理解できる授業に感動していると、何故か得意げなお嬢様と目が合った。
『ほら、大丈夫と言っていたでしょ』とでも言いたげな目に少し口を尖らせて視線をずらしたナディアは、再び先生が黒板に書いていく文字を追った。
当たり前のようにお嬢様の婚約者殿がお嬢様の隣に座っており、逆側には彼の従者であるヒュンベルも座っている。
何かと一緒に過ごすことが多いヒュンベルとは犬猿の仲で、もし今も隣に座れば口喧嘩が始まっていたことだろう。主人があまりにも美男子である為その輝きは霞んでしまうが、彼もなかなか美麗である。
柔らかな栗色の髪に、大きいのに切長の瞳はウインクをした時にとても映えるそうだ。仕事から外れると色々な女の子と遊んでいるようで、外からの噂話は絶える事はない。
ナディアが一番気に入らないのはとても高身長なところ。
160センチあるナディアですら見上げるその身長に、女性達はメロメロらしい。ナディアからすれば常に見下ろされているようで腹立たしいだけなのに、と思っていた。
「僕も優秀なんだよ」
「そうなんですね、それは流石です」
授業終わり、にこやかに話しかけてきた婚約者殿にお嬢様が頬を染めながら話している場面を凝視していると、いつの間にか隣に来ていたヒュンベルに話しかけられていた。
ナディアが全く顔を動かさずに対応すると、ひょこりと顔を覗き込んできたヒュンベルにビクリと体が跳ねる。
「いい加減こっち見て話して欲しいんだけど」
「申し訳ありません、不純な物を目に写さないよう日々努力しているので。それに邪魔をしないでいただけますか」
「本当、アナタシア様のこと好きだよね。まぁ、僕もアルレイドの事好きだけどさ」
このヒュンベルという男と主人であるアルレイドは主人と従者という関係ではあるが、幼馴染でもある。2人は従者の関係ではあるものの、今のこの4人でいる時は親友のように接していた。
その流れでナディアにも気安く接するよう常に言ってくるものの、彼はファビント家に仕えることを使命とする伯爵家の次男なので、ナディアからすれば格上の貴族、この学校にも付き添いではなく普通に通っているらしい。
この授業を選択して、普通に受けているのであれば確かに優秀なんだろう。
ナディアには全く関係のない話ではあるが。
「ナディアさーん」
「ちょっと、話しかけないでくれませんか」
「ナディアさんが冷たい、泣いちゃうよ、僕」
「こんな事で泣くなんて気持ち悪いですね。早くあっち行ってください」
「アルレイドーナディアさんが冷たいー」
せっかく貴重なワクワク時間を邪魔をされたうえ、報告までされるとは、と、ナディアは静かにお嬢様の後ろへと移動した。
「ふふ、今日も私の従者がすまないね。ナディア」
「ナディア、またヒュンベル様にそんな態度取って」
「……」
別にナディアも他人行儀に対応する事だってできる。
でもそれをしないのは、ある程度信頼を置いているからに他ならない。その態度がこうなってしまう事はナディアの性格上の問題なので、最早どうする事もできなかった。
「次の授業遅れます、お嬢様」
「全く……申し訳ありませんわ、ヒュンベル様」
「いや、ヒュンベルはナディアに冷たくされるのが好きだから、気にしなくていいよ」
「アルレイド!それは違うって!うわ、ナディア誤解だよ、ゴミを見るような目で見ないで!!」
でもナディアは、この4人でいる時の空気感がとても好ましく思っていた。
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