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6月、お嬢様が学校の寮で暮らすこととなった。
4月時点では家から通っても支障がないとコーコリア公爵が仰っていたのに急に何があったのかと尋ねると、婚約者殿に誘われたのだという。
突然のことにナディアは戸惑ったが、その理由が明らかにならないままどんどんと月は流れ、ついに明後日にお嬢様が寮へ引っ越す日となってしまった。
「勉強会、ですか?」
「ええ、寮に住む学生は少し遅い時間まで図書館を使用して良いと言われているの。最近勉強も難しくなってきたし一緒に勉強しようと、アルレイド様が」
ナディアは感心した。
これならお嬢様も安心して寮に移る事だろう。
学校の寮に住む学生は辺境に住む貴族か平民位しか住んでいない。その全員には自室もあるため、常に図書館を遅くまでは使わないはずだ。少人数で、もしかしたら二人きりになれるタイミングだって出てくることだろう。
まだ形式的な腕組みしかしていないと聞いているので、少しだけ婚約者殿の邪な考えがチラつくが、きっとナディアの思い過ごしだと気にしないことにした。
そんなことよりも、流石にお嬢様が1人学校に行くとなれば戦闘もばっちり出来る侍女が向かうはずだ。
3年お嬢様付きから外れるとあらば、この数年取れていなかった休暇を少し頂くことも出来るかもしれない。
自分のいない場所で美味しい場面が動くことは今まで専属侍女として働いてきた身としては非常に残念だなとナディアは思った。
「それで」
「はぁい?」
ナディアはこの後自由になる生活へ心躍らせながら紅茶の準備をしていた手を止めてお嬢様と目を合わせた。
お嬢様は、腰まで伸びたその輝くような銀色の髪を鬱陶しそうに後ろに流すと、ナディアの目を見てニコリと微笑む。
「ナディアについて来てもらおうと思って」
その問いにナディアは自信満々に答える。
「いやぁ、私戦闘できませんし」
「あらそう?体術を習っているのは知っているわよ」
「…… 」
お嬢様は、とてもにこやかに笑うと全て見透かした顔でナディアを見据える。
「……公爵様に許可は」
「もちろん取ったわ」
「……なるほど、です」
「異論はないわね?」
「はい……行かせていただきます」
実はナディアは、昔からお嬢様対策で密かに体術を習っていたのだが、「これがバレたら殺されます、絶対に秘密にしてください」と公爵にお願いをしていたはずだった。これに公爵は同意されて固く結んだはずだったのに。
コーコリア公爵が裏切った。
何か、お嬢様に弱みを握られたのだろう。
お嬢様はきっといつか、このようにバレている事を暴露してやろうとでも思っていたはずだ、お陰でナディアの解放される数年間は泡となり溶けた。
お嬢様と短い間お別れが少し寂しいのかもなと思っていたのは僅か1秒ばかり。
「ふふ、貴方と学園に通えるのは少し楽しみだわ」
「私も楽しみです……」
学園には侍女や執事は1人しか付けられない決まりとなっている。学園に通っている間、お嬢様からの命はナディアにしか降りかからなくなる事が今、確定したのだった。
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