23
少し間が空きました。。
ヒュンベルとナディアが言い争いを終えて主人たちの元へ戻ると、お嬢様の婚約者殿がナディアに話しかけてきた。
「ナディア、あの娘のせいで倒れたそうだね」
ああ、光の娘のことかなとナディアは無意識に考えていると、婚約者殿の言葉にお嬢様は眉を顰めた。
「アルレイド様、そのような呼び方は」
「なんだ、アナタシアも誰か分かったんじゃないか」
「それは……ナディアが倒れた原因を持つ者が彼女だけだからですもの」
「はは、確かにそうだね。でも私は彼女の名前を呼ぶことも少し恐ろしいよ」
『あの娘』の件で婚約者殿にも心配をかけたようだ。
お嬢様が呼び方を嗜めたが、婚約者殿の言う通りきっと何も無くとも誰のことか分かったのだろう。
彼女は恥ずかしそうに顔を赤らめていた。
「はい、ヒロメニア様があまりにも気持ち悪いことを言うもので倒れてしまいました」
「気持ち悪いこと?」
「あら、私も聞いていないわね」
「……」
「ナディア?」
「…………ああと、」
お嬢様の可愛い顔に、つい気持ちが緩んでいたせいで余計な事を言ったナディアは慌てて視線を伏せたものの、お嬢様の無言の圧力に負け、あの日言われた言葉をボソリと呟いた。
「あの日私はヒロメニア様に『貴女が持つ通し目の能力は私の為の能力だ』と言われました」
◇◇◇
ナディアが光の娘と階段で遭遇した時の話は、お嬢様や婚約者殿に衝撃を与えたらしい。
ただヒュンベルの方は顔すら向けることは出来なかった。恐らくナディアの事を至極冷めた目で見ている事だろう。
先程『今後は何かあれば伝える』と言っていたはずなのに何故あの時に言わなかったのか、と思っているに違いない。
「ナディア」
「はい」
「何故そんな重要な事を言わなかったの」
「……また、ご迷惑をかけてしまうと思いました」
「それだけ?」
「……」
違うと、すぐ口に出来なかったのは、ナディアがお嬢様に嘘などつくことが出来ないからだった。
ただし、ナディア自身もこの事実に今気がついた事に驚きを感じていた。
三者からジトリと見つめられたナディアは、何も言わないままで終わることは出来ないとため息をつく。
「あの日、気持ち悪い事を言われただけではすぐにお伝えしていたかもしれません」
「一体他に何があったの?」
「……あの時意識が、誰かのものに塗り替えられてしまうかと思いました。あの光の……ヒロメニア様が何か悪い魔法を使ったのかと思うほど、強力な何かに心が動かされたのです。そして、今無意識にこの現象を黙っていたと気がつきました」
「今?」
「はい……何故覚えていなかったかは分かりません……」
今思えば、『通し目』という言葉も知らなかったナディアは、「こんな事を言われた」と気軽に話していたかもしれない。
こんな、冗談みたいなことを、言われたと。
ナディアの言葉に全員が言葉を発しなかった。いや、出来なかったのだと思う。
記憶操作は黒魔術でしか使えないのだ。
お読みいただきありがとうございます!




