22
「ちょ、ちょっと!何するんですか!」
「……」
ヒュンベルはナディアを抱き抱えたまま思考する。特に害はなさそうな内容だと感じた。
妖精文字は一般への認知の無さから危惧される対象だ。
特に王族の中では最も気をつけるべきとされており、将来の宰相と任されるだろうヒュンベルの主は既に妖精文字の勉強を済ませている。
だが、まだナディアの主人であるアナタシアはこの文字について把握していない。
「ナディア、これ誰にもらったの」
「知りませんよ!それより離し」
「言わないとずっと抱きしめちゃうよ?」
「本当に!分からないんですってば」
僅かにヒュンベルが手を緩めると、ナディアはするりと体を移動させて彼の腕から抜け出した。
紙をまだ見つめているヒュンベルにナディアは、これは本当に厄介な物らしいと眉を顰める。だが、これを渡してきた人物は自分を貶めようという意思は無さそうだった。
「誰かには貰ったんだね」
「……ええ、でも、悪意があるように感じませんでした」
「だろうね、これは恐らく護身用だ。君を守るために渡してきたのだろう」
ナディアは小首を傾げると、自分を守ろうとする人間など居ただろうか。と考えた。
お嬢様はもしそうだとしても、直接渡してくれるはずだ。
「どうして、そいつの事分からないの?」
「え、そいつ?」
「これ渡してきた奴の事」
何故か苛立たしそうに紙を振りながら、ヒュンベルはナディアに問い詰めていた。
だが、それが何に対しての感情かはナディアは分からないようだ。
ヒュンベルの問いに、ああと言った表情を浮かべてナディアは彼の瞳を見つめた。
「ドア越しだったんですよ」
「は?」
「ドア越しに話しかけられて、それを隙間から差し出されたんです」
「ナディア、そんな危ない物を1人で対処しようとしたの?」
「別に、文字調べる位……」
「アナタシア様に言いつけていいの?」
「……申し訳ありませんでした」
お嬢様にバレると思ったナディアは顔を青くしてヒュンベルに謝った。おおよそ、彼女も怪しいと思ってアナタシアお嬢様に知られないよう、対処しようと考えたのだろう。
だが、その辺り協力者として一欠片も自分の事を考えなかったナディアに、ヒュンベルは苛立ちを感じていた。
「頭いいんだから、協力者いた方が良いって分かるでしょ」
「だって昨日の出来事だから……これが本当に怪しい物か調べてから、話した方が良いって」
「…………」
「考えたかも、しれないじゃないですか」
「かもじゃだめなの!前から言ってるけど、アナタシア様に相談しにくい内容は僕に共有して。誰も分からない状態は良くないでしょう?」
「ヒュンベルは相談してくれないくせに」
「え?」
ボソリと呟かれた言葉は、ヒュンベルに僅かに聞こえていた。だが、常に冷たいナディアから、そんな言葉が聞こえてくるとは思えずに目を大きく見開く。
「ナディ、」
「じゃあ、今回は協力お願いいたします。ヒュンベル様」
半端睨みつけられながらヒュンベルは思わずうなずいた。
「ちょっと、今回もだからね」
「ええ、はい」
「あと前みたいに、ヒュンベルで良いってば」
「お貴族様にそんな対応いたしません」
「ナディアの意固地」
「何とでもどうぞ!」
お読みいただきありがとうございます!




