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「妖精文字……」
ナディアはお嬢様に付いて図書館に向かうと、すぐさま言語関連の並ぶ本棚を調べ始めた。
『世界の言語』という分かりやすい本が隅に鎮座し上には埃が溜まっていたが、ナディアが欲しい内容が記されていた。
言語の種類と用途、使われていた年度。
それらが詳しく記され、その中でも僅かなページに妖精文字は説明されていた。
数百年前に人間の前に現れていた妖精はいつしか人間になりすまし、自らが妖精だと名乗ることはなくなった。
理由は人間からの迫害が大いに関係しているだろう。
妖精は美しい羽を持ち、人間の魔力を向上させる粉を生成できた。
そこに目をつけた人間はその美しい羽をもぎ取り、粉を作らせる奴隷として扱い始めた事が要因である。
妖精は羽を体内にしまい、以前は仲良く暮らし、人間のために生成していた粉を作らなくなったのだ。
妖精文字は、妖精の間だけで会話をする為の暗号文字でもある。
説明はその様に書かれていた。
昔の暗号であれば今は解読され、辞書などが出ている事が多いが、妖精文字の辞書はなく暗号などが詳しく書かれている一部に記載されているだけであった。
それほどまで一般的ではない文字を使用したあの扉の向こうにいた人物は、まさか人間の前に現れた妖精なのかもしれない。
やはり、危険性が高い行動をしてまでナディアにネックレスを渡した意図が全く分からない。
ナディアはお嬢様達にも気付かれないよう、メモを取り出して解読を始めてみた。
『体 守る バリア』
「……る以外読めないな」
「ナーディア!」
「ヒュンベル……!」
「何してるの?そんな場所で」
柱の影から顔を出したのは、婚約者殿の従者ヒュンベルだった。図書室の奥、窓枠の部分で本を読んでいたナディアは接近に気が付かなかった。
ヒュンベルは面白そうな顔をしてナディアが読んでいた本を覗き込む。
「……なんで妖精文字調べてるの?」
「妖精文字の事知ってるんですか」
今ナディアが見ていた箇所は、妖精文字の一部が記されたページだった。
どこにも妖精文字だと記載は無く、一瞬見ただけで妖精文字だと分かるのは、元から知っている他ないだろう。
「先に僕の質問に答えてくれる?」
「え、嫌、ですけど」
「嫌って……僕はナディアのこと心配しているんだ」
「この文字のこと知ってるのは怪しいから、嫌です」
「……」
「……」
ヒュンベルは眉を下げ、口を開けたまま固まった。静かな図書室で時間が止まったように2人とも動かずに数秒、ヒュンベルがため息をつく。
「はぁ……ナディアは一人で抱え込むから心配だ」
ヒュンベルの言葉にナディアはピクリと肩を揺らす。顔を背け、ヒュンベルの視線から顔をそらした。
ヒュンベルは再びため息をつくと、窓枠に手を置いてナディアと距離を詰める。ナディアは顔を赤くして握ってきた紙を手放してしまった。
「あっ」
ヒュンベルは見逃さずに紙を奪い取ると、声を上げたナディアをそのまま抱きしめて紙の内容を確認したのだった。
お読みいただきありがとうございます!
ヒュンベルは現代でも通用するイケメンのイメージです、チャラいけど。




