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13 黒髪の少女
黒髪の少女が走っていた。
清潔感のある白いワンピースはこの場には少し場違いだ。夜も遅くお付きの者も居ない。いくら安全な街とはいえ、高貴な女の子が1人で出歩くには些か危険であるだろう。
「はぁ、はぁ、なんでこんな事に」
後ろを振り返ることもなくただ真っ直ぐに進んでいくところを見ると、誰かから逃げている訳では無さそうだ。
閑散とした大通りは昼間であれば市場が並び、人も増え
とても賑やかになるものの、今は1人か2人がちらほら見えるのみ。
その誰もが不思議そうに走り去る少女を眺めている。
「そこの君!」
不意に少女の腕を掴んだ男は、本当に心配そうな表情で少女の視線を受け止めた。
だが、少女は手をスルリと引き抜くと勢いよく頭を下げてこう言う。
「ごめんなさい!急いでるの」
「あ、ちょっと」
そう男が呼びかけた時には、すでに少女は走り去っていた。
男は困った顔をしてため息をつく。
「この先は領主様のお屋敷しかねぇってのに……」
そんな気遣う声は、何かに慌て走る彼女に届くことはなかった。
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